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2012年7月 1日 (日)

275 『人を助ける へんな細菌 すごい細菌 ―ココまで進んだ細菌利用』 中西貴之 初版2007年

人間界で脚光を浴びる細菌たち

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search概要

天空高く飛びまわり,地中深くにひっそり,しかし大胆に潜伏。モノづくりがやたら上手で,薬を作り,磁石を作り,プラスチックまで作り出す。めちゃくちゃピンチに陥ったときは,遺伝子チェンジでパワーアップ。我等がヒーロー・細菌にかかれば,大抵のコトは即解決!!

search読むきっかけ&目的&感想

近年のヨーグルトは高機能で、容器には何やら色々と菌の名前が明記されている。この半年くらいは同じのを食べているけど他のも気になるので、ちょこちょこネットで調べているうちに、細菌って面白いなぁと思うようになった。それで、気軽に読めそうな本書を借りてみた。

さくら好み ★★★★

サクサク読めて面白かった。

searchメモ

人工的な環境汚染物質を分解して環境浄化を行う細菌

地球上で最初に自然界に大量にまき散らされた人工合成有機物はDDTで、1939年のことでした。DDTが害虫駆除や公衆衛生に非常に有効であることがわかると、それをきっかけに次々と新しい合成農薬が開発され、大量に散布されました。これらは、感染症撲滅や穀物収穫量増大などに大きく寄与したのですが、その後、自然界に蓄積されることによる生物への悪影響が、世界各地で報告されるようになります。

いったん散布された農薬は、人間の力では回収・除去することは不可能で、その分解は自然界の力に頼らざるを得ません。ところが、短期的に大量の散布を行ったことで自然の除去能力では処理しきれなくなり、海洋や河川、ある場合は母乳中などから農薬が検出される事態になったのです。

ところが不思議なことに、環境中に人工合成有機物が撒き散らされるとそれを分解する細菌が誕生することがわかりました。その一つが、1950年ごろに発見されたDDT分解菌です。DDTが商品化されてわずか十数年後には、それを分解する能力を持つ細菌が現れたのです。DDTは、細菌にとって初めて見るものであるはずなのに・・・

人類がピロリ菌に感染したのは5万8千年前、場所は東アフリカで

人類の起源を説明するミトコンドリアのイブ説によれば、私たち人類は、ある時期アフリカを脱出して世界中に散らばっていったとされていますが、ちょうど時期を同じくして、ヘリコバクター・ピロリは人間に感染したことになります。

ミトコンドリアとは、私たちの細胞の中に存在する細胞内小器官と呼ばれる構造体です。ミトコンドリアは、生物がまだ単細胞だった時代に共生した別の生物だったとされていて、元々自分で持っていた遺伝子の大部分を宿主の細胞にゆだね、その遺伝子は宿主の母親から子どもへ受け継がれます。このため、ミトコンドリア遺伝子を調べれば、母方の系図が解明できます。こうした性質を利用して、世界各地の人種の類縁関係をたどっていき、人類の家系図といえるものを作成した研究者がいました。

この研究によると、全ての人類のもつミトコンドリアは、アフリカのある女性が由来であることがわかりました。そこで、創世記にちなんでこの女性をイブを仮称し、アフリカ由来の人類の系列をミトコンドリアのイブ説としました。

ヘリコバクター・ピロリについても、遺伝子の微妙な違いで系統樹を作成する手法を適用すると、私たちにこの菌がいつ感染して、どのような経路で世界中に広がったのかを予測することができます。

現在の世界各国の人類がおなかに飼っているヘリコバクター・ピロリは、地域ごとにすでに遺伝子に大きなバリエーションが生じていることから、人類がこの菌に感染したのは、はるか昔であることが予測されます。ヘリコバクター・ピロリの遺伝子変異と、実験結果から予想される変異速度から逆算すると、感染は5万8千万年前。感染した場所は東アフリカという結果が得られました。

また、ヘリコバクター・ピロリの遺伝子は、人類の遺伝子よりも変化が生じる速度が速く、数千年の世代の違いがあれば遺伝子の違いを確認できます。そのため、人類の系譜を調べるには、現在広く使われているミトコンドリアの遺伝子を調べる方法よりも、ヘリコバクター・ピロリを調べたほうが、より正確な情報が得られると考えている学者もいます。

糞便というと食べ物のかすというイメージがありますが、むしろ正確には菌団子

私たちの体には、確認できているだけで2千種類以上の細菌がいます。現在の技術では確認することができない特殊な細菌も多数生息していると考えられるため、この数は今度、細菌の研究手法が発達するに伴って増えてくるものと思われます。私たちの体で最も多くの種類の細菌が生息しているのが腸内で、500~1千種類以上います。次いでは口の中に500種類以上、皮膚に数百種類以上の細菌が暮らしています。

腸内に生息している細菌は糞便となって体外に放出されますが、糞便1グラムのなかには、なんと1兆個もの細菌が含まれています。糞便というと食べ物のかすというイメージがありますが、むしろ正確には菌団子です。糞便重量から細菌数を概算すると、腸内には100兆個から1千兆個の細菌がいることになります。人間の体が60兆~100兆の細胞でできていることを考えると、腸内で生活している細菌の数は、人間全体を構成する細胞数よりもはるかに多いことになります。

“プロバイオティクス

LG21入りのチーズやヨーグルトのように、人間に対して健康上よい作用を示す細菌を含む食品のことを、プロバイオティクスといいます。

プロバイオティクスとして用いられる菌のほとんどは腸内細菌で、特に人間のプロバイオティクスとしては、人間由来の細菌が最も効果が高いことが知られています。腸内菌の種類は膨大で、その全体像はまだ把握できていませんが、プイロバイオティクスに用いられる細菌は、系統分類学的に素性の知れているものが使われます。

プロバイオティクスには、乳酸菌の仲間が多く含まれています。含まれている乳酸菌やビフィズス菌は生きたまま腸まで届くことが確認されているのですが、これがまさにプロバイオティクスで、健康増進に役立つ生きた微生物です。

腸に到達した菌の振る舞いとして、主に次の三つが挙げられます。一つ目は、腸の内側に菌のバリアを形成しサルモネラ菌などの有害な菌が腸に付着することを抑制する効果。二つ目は、有害な菌を破壊する抗菌物質を分泌したり、有害菌を取り込んで増殖できないようにして撃退する効果。三つ目は、病原菌やウィルスなどの攻撃から体を守る免疫系を活性化する効果です。

プロバイオティクスの整腸作用は科学的に証明されていますが、その他にも多くの効果が期待できることが期待されています。

細菌による発電 - バイオ燃料電池

バイオ人工降雪機

生きた細菌をメモリーカードのように記憶メディアとして使う

2007年、細菌を使った画期的な技術が発表されました。慶應義塾大学先端生命研究所と同大湘南藤沢キャンパスの研究グループが、生きた細菌をメモリーカードのように記憶メディアとして使う実験に成功したのです。

全ての生物は遺伝子を持っています。その中には、符号化した自分の細胞を構成するすべてのパーツの設計図が書き込まれています。今回成功した方法では、細菌が自分のために使用する設計図の隙間に、細菌の遺伝子と同様の方法で符号化したデータを挿入・再生をするというものです。

細胞を記憶媒体として使用するメリットは、CD-ROM、メモリースティック、ハードディスクといったコンピュータに用いられるあらゆる磁気メディアと比較して格段にサイズが小さいこと、記録密度が高いこと、世代を経て遺伝情報を継承していくため大容量のデータを長期にわたって保存することができる可能性があること、などが挙げられます。

研究グループは、アルファベットの文字情報を予め決めておいた規則に従って遺伝情報と同じ書式に変換し、枯草菌バチルス・サチルスのDNAの複数個所にコピーして挿入する技術を開発しました。この技術では、1個の細胞に1メガバイトの情報を記録することができるのです。また、記録した情報が部分的に破壊されてしまっても、DNA内の他の場所にコピー情報と補完しあって、正しい情報に修復できるようなエラー訂正機能も付加してあり、DNAに15%の変異があってもデータの99%以上を読み出すこともできます。

この機能を利用すれば、工業的価値の高い菌株のDNAにブランド名などを書き込むことで、他者が勝手に菌株を利用するとすぐにバレるような、知的財産権保護などの使い道も開けてきます。

好熱菌は私たちの究極のご先祖...?

地球上の生命は、ただ一つの根源的生物から地球上で進化を続けて現在に至っているという説が有力です。進化の系統樹を逆に辿った時に現れる、全生物に共通する仮想のご先祖様をコモノートと呼びます。

コモノートがどのような生物だったかということは、生物種ごとの遺伝子差異に着目して「よく似た遺伝子は共通の祖先を持つ」という前提で、生物の進化を「生物の系統樹」と呼ばれる図に描くことによって明確になります。細菌をこの系統樹に当てはめると、コモノートに近い周辺の生物は、全て好熱菌であることがわかりました。このことは、現在私たちが観察している好熱菌は、地球上の生物全ての共通・究極のご先祖様の末裔である可能性が高いことを意味します。

好アルカリ菌と家庭用洗濯洗剤

ナノバクテリアは生物なのか粒子なのか

細菌の大きさといえば、ミリメートルの1千分の1のマイクロメートルが相場です。ところが、それよりさらに数十分の1小さい、数十から数百ナノメートルの大きさの細菌が存在する可能性が出てきました。

ナノバクテリアと名付けられたこの極小細菌は、動物の細胞を使った実験をしていた研究者によって、死んだ細胞の中で増殖する非常に小さな微粒子として、1998年に初めて報告されました。

ナノバクテリアは人にも感染するようで、心臓、卵巣ガン、動脈瘤など、人間の疾患組織からの分離が次々に行われました。2005年になると、尿路結石由来の慢性骨盤痛を持つ患者に対し、原因がナノバクテリアであると仮定した治療を施したところ、症状が改善したことが報告されました。2006年には、日本製の超高分解能顕微鏡によって、ナノバクテリアがカルシウムの石灰化を行っている様子も撮影されました。

これらはいずれも医学上の重要な発見ではありますが、ナノバクテリアが生物なのか粒子なのかという問題を結論づけるには、データがまだ不十分です。この議論は微生物学における過去最大の論争であると言われることもあり、現時点では多くの微生物学者は異端になってしまう可能性を恐れ、論争を遠巻きに見ている状態です。

search著者

中西貴之 1965年、山口県下関市彦島生まれ。山口大学大学院応用微生物学修了。現在、総合化学メーカー宇部興産株式会社有機化学研究所で鋭意創薬研究中。趣味は中学時代に始めた写真。地元下関の伝統芸能「平家踊り」では音頭取りを務める異色の研究者。日本質量分析学会、日本科学技術ジャーナリスト会議会員。

*ヴォイニッチの科学書の「おびお」さん=中西孝之さん

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