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2011年3月 6日 (日)

264、265 備忘録 「心と性 ~性の自己認知」

「あなたは どうして 自分が女だと 分かるの?」

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社会は 性別を どう判断するのが 良いのか?

 

264 『性の境界 ~からだの性とこころの性』 山内俊雄 初版2000年

「体の方が間違っているんだ」。心と体の性別が一致しない「性同一性障害」はなぜ起こるのか。微妙なバランスの上に立つ性分化の過程から、「男らしい男」と「女らしい女」だけではない、多様な性のスペクトルが生まれる。日本初の性転換手術の申請を受けて心と体の性の問題を議論した埼玉医大倫理委員会委員長が医学的見地から解説。

265 『ブレンダと呼ばれた少年 ~ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』 ジョン・コラピント 初版2000年

原題: The True Story of JOHN / JOAN By John Colapinto (The Rolling Stone, December 11, 1997. Pages 54-97)

1967年、アメリカで包皮切除手術に失敗した8ヶ月の双子の男の子のひとりが、性科学の権威、ジョン・マネーの勧めによって、性転換手術を受け、ブレンダという名前で女の子として育てられた。性転換をすれば、女性の生殖機能を持つことができ、正常な性生活をおくれるとマネーは説得したが、実は、ブレンダは「性別の自己認識は環境的要因によって決まる」というマネーの理論を裏付けるための格好のモルモットとして利用されたにすぎなかった。マネーは、この症例を医学ジャーナルに発表し、自説の正当性を主張し、キンゼーレポート以来の偉大な発見としてセンセーションを呼ぶ。だが、少女となった男の子のこころと身体は、成長するにつれ重大な危機を迎える・・・。

toilet読むきっかけ&目的&概要

「生物学的に男=性の自己認知も男=性の指向は女=社会的役割は男」であることを求められ、「生物学的に女=性の自己認知も女=性の指向は男=社会的役割は女」であることが当然だと思われ、そして求められる。けど、それらが一致しないセクシャル・マイノリティの人たちがいる。最近その中でも、性同一性障害と呼ばれる人たちの事がとても気になるようになった。2004年に「性同一性障害特例法」が施行され、それ以後特に社会的にも注目を浴びるようになった気がする。

「あなたは どうして 自分が女だと 分かるの?」

これは、『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』で取り上げていたドキュメンタリー映画「Prodigal Sons」の中で、性の適合手術を受けて女性になった(でも、性の指向は女性の)キムが、彼女が男性ポールだった時しか知らなかった高校時代の同級生の女性たちが口にした疑問に、答えた言葉の一部だ。「私は、どうして自分が、女だとわかるのか?」、分からない。身体が女だから?(身体が女ってどういう事?染色体?脳構造?生殖機能?)、恋愛の対象が男だから?、お化粧してスカートも履くから?、???、考えたことがない程当たり前に過ごしている。キムにとっても、自分が女だと感じるのはただ感じるのであって、理由云々ではなくそれが紛れも無い自己認知なのだろう。

そういった「性の自己認知」を含む「心の性」がどういうものなのか、とても気になる。ただ「心の性」となると漠然とし過ぎるので、まず「性の自己認知」について知りたいと思った。で、適当なキーワードでググってみて流し読みをしたあと、一般書『性の境界』と有名なノンフィクション『ブレンダと呼ばれた少年』を読んでみることにした。

さくら好み ★★★★☆

toilet備忘録

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◆性の同一性がある、ない

・性には「生物学的性別」と「性の自己意識・自己認知」とよばれる二つの側面がある。

・ジェンダーという言葉は大きく分けて、三つの使い方がされています。①「性の自己意識・自己認知」、②外形として区別される生物学的性別、③「社会的・文化的に形作られた性別」・・・「女と男が異なる性として人為的・社会的に作られている」というだけではなく、「男性が優位であるような形で位置づけられていること」をも意味して使われることが多く、その意味では性差別に近い使われ方です。このような観点から、「フェミニズム運動」や「ジェンダー論争」、「ジェンダー研究」が発展してきたいるわけです。

・「自分は男(女)である。男(女)として暮らすのがふさわしい」と感じ、自らの性別になんら違和感を覚えないのが一般的です。このようにセックス(生物学的性別)とジェンダー(性の自己意識・自己認知)が一致している場合を「性の同一性がある」といい、両者が一致しないとき、性の同一性が傷害されているという意味で「性同一性障害」といいます。

◆私が私で生まれる確立は1/64兆

卵子と精子が合体する「受精」の際には、それぞれの染色体が減数分裂を起こします。その結果、卵子には22本の常染色体と、性染色体のXが1本入ります。一方精子には22本の22本の常染色体のほかにXまたはYのいずれかの性染色体が入ります。したがって、卵子と精子が合体したときには、女性と男性のそれぞれから半分ずつの常染色体とXXまたはXYのいずれかの性染色体をもつことになります。

ところで、減数分裂の際に起こる現象として、次の2つのことが重要な意味をもっています。その1つは受精の際に、多数の染色体の組み合わせの可能性があることです。つまり、減数分裂は46本あった染色体が、23本に減ることを意味していますが、2本相同染色体のうち、どちらの染色体が精子、あるいは卵子に組み込まれるかは2通りの可能性があります。このことは、1番目から23番目の染色体それぞれについていえますので、どのような染色体の組み合わせが成立するかは、2の23乗(800万)通りあることになります。したがって、同じ両親から800万x800万通りという膨大な組合せの、違った兄弟が生まれる可能性があるわけです。

think 。。oO世界人口は69億人・・・う~む

◆精巣あるいは卵巣という二つの器官になりうる「性的両能期」

卵子と精子が受精して、妊娠4週目になると、将来、精巣や卵巣になる「性腺」のもと(原基)が出現します。この原基は最初は男性、女性のいずれの特徴も示さず、妊娠7週目までは未分化の状態ですが、その後、精巣(男性)か卵巣(女性)のいずれかに分化し、輸精管や輸卵管といった輸管系も男女いずれかになり、一方が消失していきます。性腺の原基だけは精巣あるいは卵巣という二つの器官になりうるという点で、他の器官とは違っています。性腺の原基が精巣、卵巣のいずれにもなる能力を持っているという意味でこの時期を、「性的両能期」あるいは「未分化期」とよびます。
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◆XX女性、XY男性、XX男性、XY女性

ヒトでもXX染色体をもちながら、男性性器をもつ場合がおおよそ2万人に1人の割合で生ずることが知られています。どうしてそのようなことが起こるかというと、減数分裂の際に、平行に並んだ相同染色体の間でもそのような組み換え現象がごくまれに生じます。

どうしてそのようなことが起こるかというと、減数分裂の際に、平行に並んだ相同染色体の間で、たがいに一部分を入れ換える組み換え現象が起こりますが、性染色体の間でもそのような組み換え現象がごくまれに生じます(下図参照)。その結果、男性ではXとYの間で交換がおこなわれ、Yの短腕上にあるSRY遺伝子がX染色体上に移り(転移)、その結果、XXなのにSRY遺伝子(哺乳類のY染色体上にあり、胚の性別を雄に決定する遺伝子)をもつことになり、XX男性が生まれると考えられます。同じようにして、XY染色体をもちながら生物学的に女性の場合には、Y染色体短腕部分にSRY遺伝子を欠いていることも明らかにされています。
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このようにして、性染色体によってわれわれの性別が男女のいずれかであるかが決定づけられることから、この段階を「第一次性別決定段階」とよびます。

とはいっても、SRYが精巣への分化を促す唯一の遺伝子であるかどうか、たとえ初期には男性への分化がSRYによっておこなわれても、その後の分化を進める因子が別にあるのではないか、といったことがまだ疑問として残されており、今後も、性別の分化という神秘の解明が進められることと思います。

◆性器の分化をひきおこすホルモン

胎生7週頃までにY染色体の短腕上にあるSRYによって精巣ができ、そこからアンドロゲンミュラー管抑制物質の2種類のホルモンが分泌されることによって、内性器の男性化がひきおこされ、女性性器の退化・消失がおこると考えることができます。

一方、女性では適切な時期にSRYが働かないために、性腺原基は卵巣に分化し、その結果、アンドロゲンもミュラー管抑制物質も分泌されないため、ミュラー管が残り、女性の内性器となると考えると、説明がつきます。

このようにして、ウォルフ管あるいはミュラー管のいずれかが選択されて分化すると、その末端部の泌尿生殖洞とよばれる部分にアンドロゲンが働き、前立腺が分化し、射精管、精のうができます。一方、アンドロゲンが働かないと、泌尿生殖洞の部分が膣版を形成し、膣が形成されます。

◆性ホルモンの作用

性ホルモン ・・・ ①アンドロゲン(男性ホルモン)、②卵胞ホルモン、③黄体ホルモンがあり、黄体ホルモンと卵胞ホルモンを一括して女性ホルモンと呼びます。

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副腎という臓器の外側を構成する皮質と呼ばれる部分からは副腎皮質ホルモンが出ますが、同時に男女ともに男性ホルモン(アンドロゲン)がごくわずかながら、分泌されています。ですから、何らかの理由により副腎皮質ホルモンの分泌が盛んになりますと、同時に男性ホルモンも多量に分泌されることになります。その結果、女性なのに男性化が起こってしまう、「副腎性器症候群」という病気があります。

◆性ホルモンの調節中枢は視床下部(間脳)、男女で構造に差がある

性ホルモンの多くは男性では精巣から、女性では卵巣から分泌され、ごく少量の男性ホルモンは男女とも副腎皮質から分泌されることはすでにお話しましたが、これらの性ホルモンはそれぞれ、脳の中にある脳下垂体の前の部分(脳下垂体前葉)の司令を受けて分泌量が変わります。そして、脳下垂体もまた、より高位の中枢である視床下部のコントロールを受けています。

ところで、性ホルモンの調節中枢である視床下部とその周辺の神経構造は、男女で構造に差(性差)のある場所です。性ホルモンの分泌や性行動に影響をあたえる脳の中枢の構造が男性と女性で異なっていることは当然といえば当然ですが、大変意味の深いことのように思われます。

◆性別分化異常

半陰陽 ・・・ 外性器が男女両性の特徴をもっていたり、卵巣、精巣の両方を備えていたり、内性器と外性器のの性が不一致であったりするもので、性染色体に異常があるために起こることが多いのですが、性ホルモンの異常によって生じる場合もあります。「真性半陰陽」 「男性仮性半陰陽」 「女性仮性半陰陽」。

・「クラインフェルター症候群」 ・「ターナー症候群」 ・XXX女性、XXXX女性、XYY男性、XX男性

いずれにせよ、性染色体の異常のために、第一次性別分化が正しくおこなわれないと、さまざまな性別分化の異常が生ずることがわかります。

◆性別分化に影響する母親の遺伝的病気

遺伝的に副腎皮質ホルモンを作る酵素(たとえば21-水酸化酵素)が欠損している病気があります。この病気では酵素が欠けているために副腎皮質ホルモンが合成できず、その結果、副腎皮質ホルモンを少しでもたくさん産生させようと、上位中枢の脳下垂体前葉から副腎皮質刺激ホルモンが出て、副腎の働きを刺激します。そのために、副腎が肥大して過形成が起こり、副腎皮質ホルモンの分泌が増えます。ところが、副腎皮質からは副腎皮質ホルモンと同時にアンドロゲン(男性ホルモン)も一緒に出ますので、結果的に、アンドロゲンの分泌が増えることになります。

そのために性別の分化に影響する臨界期に、胎児が大量のアンドロゲンにさらされることになり、その結果、胎児が女性であった場合、内性器は女性型ですが、外性器の形成が悪く、ときには外陰部の男性化が生じます。しかも、生まれてから、女の子なのに男の子のように振る舞い、性の自己認識も男性の意識をもつこと、大きくなると、性的対象として女性を求めるようになることも知られています。

◆染色体、ホルモン、どちらも性別分化に必要

ホルモンに対する受容体や感受性に異常がある場合 > ・ライフェンシュタイン症候群(部分的アンドロゲン抵抗性症候群) ・5α-還元酵素欠損症

性別が正しく分化、発達するためには、まず性染色体による第一次性別分化が正しくおこなわれ、ついで、その性別にふさわしいホルモンが適切な時期(臨界期)に働く第二次性別分化が正常におこなわれることが必要であることが、動物実験やヒトの病気の研究から明らかになったといえるでしょう。

◆脳の構造の性差、脳の働きの性差

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発生の初期には性差がなく、どちらの脳にもなりうる可能性をもっていますが、感受性の高い、いわゆる臨界期に男性ホルモンにさらされると、オスの特徴をもった脳になる、すなわち性差が生じる可能性があるといえます。

これまでに、動物についてオスとメスで脳の構造、特にいろいろの部位の神経細胞の数の差や神経核の大きさの差(性差)があることが確かめられています。胎生期や生後まもなく、神経系が分化、発達するまさにその時期に、アンドロゲン(男性ホルモン)にさらされることによって神経細胞が増えたり、生まれたときにたくさんあった神経細胞の細胞死が促されたした結果、性差が生ずるものと考えられます。

視床下部の弓状核は女性ホルモンの性腺刺激ホルモンの分泌を調整する場所とされていますが、このように性差がわかっている場所の多くが、性衝動や情動、あるいは生きていくための本能的な機能に関係している場所であることは大変興味あることに思えます。

性差が脳の構造について認められるとすれば、それが脳の働きの性差となって現れると考えることはごく自然のことです。男女で行動パターンが違うのか、性格、感情あるいは考え方が異なるのかどうかが昔から検討されてきましたが、そのような男女の差には、生活環境や教育、社会のあり方などの違いが反映していることもあり、検査の結果を即座に男女の脳の働きの違いとするわけにはいかないことも少なくありません。

・空間認知の能力に優れた男脳 ・知覚速度が速い女脳

◆ホルモンが脳の神経回路網の形成に影響を与え、脳に性差が生じる

脳の分化、発達が起こり、内性器から性ホルモンが分泌されると、体中に性ホルモンがいきわたり、いろいろのところに影響を与えます。その一つとして、中枢神経系への影響があります。

胎生期から生後のある時期(一般には胎生期5~7ヶ月)までに主として男性ホルモン、ときには女性ホルモンにさらされると、ホルモンが脳の神経回路網の形成に影響を与え、その結果、脳の構造や機能に性差が生じます。

そのようなことが可能なのは神経系が分化・発達する際に神経系のもつ遺伝情報だけでなく、ホルモンなどの環境因子も関与して構造や機能が作られることによるためで、その意味では脳がきわめて可塑性に富み、変わりうる器官であることをものがたっています。

いずれにしても、このような神経系の分化・発達の過程で、性差が形成され男の脳、女の脳が作り出されると考えられます。

◆身体的性別とジェンダーが一致しないとき、どのひとも必ずジェンダーを選ぶ

多くのひとは、自分がどちらの性別に属するのかとか、どちらの性別で生活することがしっくりするか、などといった性別に対する自己意識や自己認知について改めて確かめたり、考えてみたりすることはほとんどなかったのではないでしょうか。ですから、性の自己意識をどうやってとらえるか、あるいはどんな形でジェンダーが表現されるか、と問われても当惑するかもしれません。

そこで、ます、性同一性障害のひとがもつ症状をみてみることにしましょう。

・反対の性に対して強く惹かれる ・・・ 自らのジェンダーにあった生活や遊びをすることが自分の気持ちにしっくりするため、その結果、生物学的な性別からみると反対の性の服装をしたり、反対の性の遊びや行動に強く惹かれ、求めることになる。

・自分の身体の性を強く嫌う ・・・ 自らのジェンダーに合わない身体的性の象徴に対する強い嫌悪感を示す。

・日常生活で、反対の性別役割をとろうとする

ここで、特に指摘しておきたいことは、性同一性障害のひとたちが、自らの身体的性別と自分のジェンダーのどちらを選ぶかをみますと、どのひとも必ずジャンダーを選び、身体をジェンダーの方に合わせようとすることです。

生物学的性別にジェンダーを合わせようとしたり、自分の身体的性別に合わないジェンダーを嫌悪し、拒絶しようとするひとは1人もいないということは、ひとの存在のあり方にジェンダーが重要な意味をもっていることを示す、大変示唆に富むことです。言い換えますと、ジェンダーはひとの考え方や行動を規定する、かなり大切なものであることを示唆しています。

◆ジェンダーの概念が成立したのはごく最近

我々にとって大切な性の自己意識であるジェンダーが学問的に注目されるようになったのは意外と新しく比較的最近のことです。

そのきっかけとなったのは、異性装と呼ばれる現象からでした。自らの性別と反対の性の服装や装飾品を身につけるひとたちのことは古くから知られていましたが、多くの場合、そのような服装をすることで性欲が高まったり、性衝動が増すことを期待する行為として受け取られていました。

ところが20世紀のはじめになって、自分が反対の性別に属したり、あるいは反対の性別として行動することがふさわしいと感じているひとたちがいて、その意識に合わせるための手段の一つとして反対の性別の衣服を着ているひとがいることに気づかれるようになりました。まさに、性の自己意識・自己認知(ジェンダー)という概念の始まりといってもよいかもしれません。

ジェンダーに関連した問題が医学会や一般のひとたちの耳目を集めたのは1952年に、男性から女性への性転換手術を行ったクリスティーヌ・ヨルゲンセンの「事件」でした。ヨルゲンセンは元軍人でしたが、デンマークで男性から女性への性転換手術を受けました。そして、ニューヨークの内分泌科医ハリー・ベンジャミンは、このような現象を性転換症(トランスセクシャリズム)とよび異性装や同性愛とは異なると報告しました。

このころ半陰陽患者の性意識を研究していたひとたちが、性には生物学的性別と性の自己認識(ジェンダー)の2つの側面があることを指摘しました。つまり、半陰陽では生物学的男女両性の性別を示す外・内性器をもっているため、外科的に男女いずれかの性別への修正手術を行いますが、その際にジェンダーを考慮せずに外形だけを変えますと、後で、ジェンダーと自分の性器の性別とが異なることになる、そのために自らの性別に違和感を抱くひとたちがいることが指摘されました。

そのような例を研究する中で、ジェンダーはおそらく二歳半頃までには確立し、生涯を通してほとんど揺るがないものであることが推定され、この時期以降に、手術などにより身体的性をジェンダーとは異なる性別に変えると、精神的、心理的にきわめて深刻な問題を引き起こすことが明らかになりました。 (*注: ノンフィクション『ブレンダと呼ばれた少年』を読む限り、二歳半以前であっても、外科的に行われた男女いずれかの性別への修正手術が、ジェンダーと一致しないで苦しんでいる半陰陽患者が大勢いるようだ。)

このようにして、1950年代から1960年代にかけて、性の自己意識あるいは自己認知と呼ばれるジェンダーの概念や性別役割といった心理的、社会的性の概念が確立されるようになりました。

その意味では、ジェンダーの概念や性転換手術についての考えが成立したのはたかだか30~40年くたい前の、ごく最近のことといえましょう(2000年現在)。また、「性転換症」を「性同一性障害」と呼ぶようになったのは1970年代に入ってからのことです。

◆ジェンダーはどのようにして作られるか???

①形態因説 ・・・ 性差がある脳部分の形態変化(男性なのに女性的な脳、あるいはその逆)。

②性的指向と脳の形態 ・・・ 性同一性障害は、同性愛か異性愛かという性的指向とは基本的には異なるものであるが、一部では深い関連がある?

③ホルモン因説 ・・・ 胎生期の性ホルモンの異常が性同一性障害をひきおこすという説。特に性ホルモンが脳の構造的性差を作るという考えからしますと、先に述べた脳の形態変化(①)も、実はホルモンの異常によってひここされたと考えることもできる。現在の有力説。

・染色体・遺伝子因説

・心理・社会的因説 ・・・ 性同一性障害の原因として、心理的な原因や社会的環境、あるいは育て方が関連するのではないかとの考えは早くからありました。(*注: ノンフィクション『ブレンダと呼ばれた少年』を読む限り、この説はあり得ないような。)

◆性同一性障害の定義

「生物学的性別と性の自己意識・自己認知が一致しないもの」あるいは「自らの生物学的性別と反対の性の自己意識をもつもの」を性同一性障害という、と定義することができます。

ただし、その際に、半陰陽のように男女いずれの性別か明白でない、あるいは性別の分化に異常のある、いわゆる間性とよばれるものは除きます。

したがって性同一性障害とは「生物的性別は正常であり、しかも自分の肉体がどちらかの性別に属しているかをはっきりと認識していながら、その反面で、人格的には自分は別の性に属していると確信している状態」と定義することもできます。なお、ここでいう「生物的性別が正常」という意味は、染色体の検査やホルモンの検査、内性器ならびに外性器の検査、生殖検査などの結果が男女いずれかを明確に示している、という意味です。もちろん、ホルモン療法を受けていたり、すでに手術治療をおこなっている場合は除いての定義であることは当然です。

◆性同一性障害のひとはどのくらい、いるか

性同一性障害のひとたちの数は正確にはわかっていません。アメリカのある報告では成人男性の2万4000~3万7000人に1人、女性では10万3000~15万人に1人とのデータがあります。また、治療を求めてきた人の数から推定すると、おおよそ男性では3万人に1人、女性では10万人に1人くらいとみなされてもいます。このようなデータから概算しますと、日本では2200~7000人の性同一性障害のひとがいると想定されますが、実際にはもっと多いかもしれません。

◆脳の働きは生物学的性別に見合ったもの

男性が女性性を望むときは女性ホルモンの投与を行い、女性が男性性を望む場合には男性ホルモンを投与します。

男性に女性ホルモンを投与すると、陰茎の勃起が起こらなくなり、体つきが丸みを帯び、筋肉が柔らかくなり、脂肪の付き方が変わるなどの身体的変化が起こります。また、気持ちの上でも女性らしさが目立ってきます。一方、女性に男性ホルモンを投与すると、月経が止まり、体毛が濃くなり、体つきが男らしくなってきます。

そのように、性ホルモンを投与すると、体つきの変化だけでなく、脳の働き具合も変わるとの報告があります。性同一性障害のひとにホルモン療法をする前と後で、脳の働きをくらべたデータによりますと、生物学的には女性で、ジェンダーが男性の人にアンドロゲンを投与しますと、攻撃性や性衝動が増し、男性の特徴である空間認知能力が高くなる一方、女性としてもっていた言語の流暢性が低下することがわかりました。一方、生物学的には男性で、ジェンダーが女性のひとに、エストロゲンを投与すると、攻撃性が落ち、性衝動が低下し、男性としてもっていた空間認知能力が低下し、言語の流暢性が増しました。

このデータが正しいとすれば、この研究は次の二つのことを示唆しています。

その一つは、ホルモンが脳の働きを変えるということです。男性ホルモンが女性脳を男性の脳としての働きに近づけ、一方、女性ホルモンは、男性脳を女性の脳の働きに近づけたということができます。このことは脳の性差は脳の構造的性差によって決められているだけでなく、少なくともホルモンによって機能的にも決められていることを示しています。

もう一つは、ジェンダーと男、あるいは女の脳の働き(脳の性差)は関係がなさそうであるということです。男性あるいは女性の脳の働きの特徴はすでにお話ししたとおりですが、性同一性障害のひとたちでも、本来の生物学的性別に見合った脳の働きの特徴を示したということは、脳の働きは生物学的性別に見合ったものであったといえます。もちろん、この変化はホルモン投与の前後を比較した相対的なもので、それぞれのひとがホルモンの投与前にどの程度の男性脳、女性脳をもっていたかということは分かりませんので断定はできませんが。

いずれにせよ、性同一性障害のひとが生物学的性別と反対の性ホルモンの投与を受けると、体つきだけでなく、脳の働きも変わり、自らが望む性(ジェンダーに合った性)に近づくことになります。そのことが、ホルモン療法により精神的にも安定することの一つの理由であるのかもしれません。

◆治療を受けたとしても、すべての苦痛がなくなるわけではない

性同一性障害の治療は、「精神療法」「ホルモン療法」「手術療法」の三段階からなり、この順序に従って第一段階から治療を進めます。そのような治療を受けたとしても、それによって、すべての苦痛や抱える問題が解決するわけではありません。たとえば、手術をした後でも、長期にわたって性ホルモンの補充療法を続けなくてはなりません。

・「性別違和症候群」と呼ばれるひとたちも少なくない

◆同一個人のもつ性の多様性

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◆デイヴィッド・レイマー

1965年、カナダで一卵性双子男児の片割れ、ブルースとして生まれる。1967年、アメリカで包皮切除手術に失敗して性転換手術を受け、ブレンダという名前で女の子として育てられる。14歳で男性デイヴィッドに自ら戻る。2004年、自殺。2002年には双子の弟ブライアンが抗うつ薬の大量摂取により死亡。

原著『ブレンダと呼ばれた少年 ~ジョンズ・ホプキンス病院で何が起きたのか』の初出は1997年。邦訳初版は2000年。

◆「双子の症例」

「まるで洗脳されているようだったよ」とデイヴィッドは言い、それからたてつづけに吸うことになるタバコの一本目に火をつけた。「もしおれの過去を洗いざらい消し去ってくれる催眠術師がどこかにいるのなら、おれはすべてをなげうってでもその人に会いに行くね。あんな拷問はない。考えようによっちゃあ、だれだって心に受けた傷が、身体に受けた傷よりはひどいこともあるだろう。やつらが仕掛けてきた心理ゲームのおかげで、おれの頭の中はめちゃくちゃになっちまったのさ」

デイヴィッドが語っているのは、30年前の四月のある朝を機に始まった、一連のできごとのことだった。生後8ヵ月にして、包皮切除手術の失敗により、自らのペニスをまるごと失ったのだ。両親は取り返しのつかない損傷を負った息子を、ボルチモアにある有名なジョンズ・ホプキンス大学病院に連れていき、ひとりの性科学の専門家に診断を依頼した。そしてふたりはその人物の説得により、息子に性転換手術を受けさせることにした。その過程には、赤ん坊のときに行われる去勢手術や、その他の生殖器手術、そしてその後12年間におよぶ社会的かつ精神的調整がふくまれ、さらにホルモン療法によって、性転換が心理的にもうまくいくように治療計画が組まれた。その症例は絶対的な成功例として医学雑誌に報告され、デイヴィッドは実名こそ伏せられたものの、現代医学の歴史において最も有名な患者のひとりとなった。

その評判は、男性から女性へというディヴィッドの内科的および外科的性転換が、発育上正常な子供にたいしてはじめて行われたことだけではなく、その症例に特別な価値を与える、確率的にきわめて珍しい状況にも由来していた。デイヴィッドは一卵性双生児の片方として生まれていた。唯一の兄弟である弟は、その実験における理想的な対照――つまりはペニスも睾丸もあり、遺伝子も同じ男性として自然に育てられた、ひとりは男性、もうひとりは女性となったその双子が幸せで、精神的にも安定した子供に成長したという報告は、性の分化において、生物学的な要素より環境に優位性があることを証明する揺るぎない証拠のように考えられた。医学書や社会科学のテキストは新たに書きなおされて、この症例がつけ加えられ、性器に損傷を負ったり、不完全な性器を持って生まれた新生児にたいする標準的な治療法、つまり、幼児期における性の再判定の先がけとして紹介された。さらにこの症例は、1970年代におけるフェミニズム運動の試金石にもなり、男女の性差はまさしく文化的な条件づけに起因するものであり、生物学的なものではないという証拠として、広く引用された。いわゆる「双子の症例」と呼ばれるこの実験の発案者であり、医学心理学者であるジョン・マネー博士(1921-2006)は、40年の研究生活において最も輝かしい成功をおさめ、1997年には「今世紀で最も偉大な性科学者のひとり」として称賛された。

しかし、1997年6月のその朝に私の前に座っていた青年の存在が示していたとおり、マネー博士の実験は失敗に終わり、その事実は同年の春、医学雑誌『小児および成人医学の記録』ではじめて公にされた。同誌のなかで、ハワイ大学の生物学者ミルトン・ダイアモンド博士(1934- )と、ブリティッシュコロンビア州ヴィクトリアの精神医学者キース・シグムンドソン博士は、無理やり少女らしさを強いられたデイヴィッドの苦悩や、デイヴィッドが14歳にしてようやく、自分自身の遺伝子や染色体に書きこまれた性を取り戻すにいたった経緯を克明に記している。ニュースは世界の医学会に衝撃を与え、当時実践されていた幼年期における性転換手術に関して激しい物議をかもした(実際、この手の手術は一般の人が考える以上にひんぱんに行われていた)。同誌はさらに、当初のこの症例の報告のされ方に関してもやっかいな問題を提起した。いったいなぜ、この症例の追跡調査によって実際の結果が明らかになるまで20年近くもかかったのか? そしてなぜその追跡調査が、マネー博士やジョンズ・ホプキンス大学病院によってではなく、外部の研究者たちによって報告されたのか? これらの疑問にたいする答えは、著名な性科学の研究者たちのあいだに30年にもわたって存在してきた競争心をも明るみに出した。両者のあいだの敵愾心は、このきわめて痛ましい医学的悲劇を公にしただけでなく、そもそもこの実験を行わせる原因ともなっていた。

性科学界の大物たちを巻きこんで世間を騒がせたスキャンダルは、デイヴィッド・レイマーにとってはまったく個人的な災難だった。

◆またたくまに世界中に広まった幼児にたいする性別再判定手術

カリフォルニア大学サンフランシスコ校の内分泌学の教授であり、この問題に関しては世界的な権威であるメル・グラムバック博士は、マネーの双子の症例は全世界の承認を受ける上では決定的であり、誕生時における人間の性意識には適応性があるという理論を肯定しただけでなく、性別再判定手術があいまいな性器を持って生まれた子供や、性器にけがを負った子供に対する有効な治療法であることを証明したと指摘した。

当時はジョンズ・ホプキンス大学病院だけに限られていた性別再判定手術も、またたくまに世界中に広まり、いまでは中国をのぞく主要な国々で実際に行われている。幼児にたいして年間何件の性別再判定手術が行われているのか正確な数字は出ていないが、アメリカの各都市では、ひかえめに見積もっても、性器に欠陥を持ち、性転換の必要な赤ん坊5人のうち3人がその種の処置を受けているという。つまり、アメリカ国内だけで、少なくとも年に100件以上の手術が行われ、世界的に見れば、その数字は年間1000件にも上ることになる。

「医師たちはその双子の体験にかなりの影響を受けていたよ」とグラムバック博士は言う。「マネーは会議の席で立ちあがって、こう言ったんだ。『双子の症例があります。ひとりはいまや女の子で、ひとりは男の子です』とね。つまりマネーたちは、正常な男の子ひとりを女の子に変えてしまったというわけだよ。この事実は強烈だよ。じつに強烈だ。この事実を前にして、いったいわれわれはどう反応すればいいのか? 双子の症例は、われわれは事実上どんなことでもできるという確信をさらに強化した。XY染色体を持った正常な男性を出産後に女性に変えてしまっても、どうってことはないんだとね」 そしてグラムバックはつけ加える。「ジョン・マネーはたいした人物だよ。マネーが言うことはさまざまな人に伝えられ、まるで福音のように受け入れられるんだから」

◆にわかに実践されはじめた幼児にたいする性別再判定手術に不安

ミルトン・ダイヤモンドは独自の調査を続けていて、性の神経系が出産前にどう組織されるかを調査していた。その結果は、半陰陽の子供であれ、正常な子供であれ、誕生時における性意識にははっきりとした男女の区別があるという確信を強固にさせるばかりだった。そしてその確信はダイヤモンドに、にわかに実践されはじめた幼児にたいする性別再判定手術に並々ならぬ不安をいだかせた。もちろん、正常な幼児を一方の性から他方の性に変えてしまうなど問題外だった。「だが当時の私には、双子の症例の誤りを立証する証拠など何ひとつなかった」とダイアモンドは語る(*双子のプライバシーは徹底的に秘密にされていた)。「ただ理論の上で闘いを挑むしか、ほかに方法がなかったんだよ」 しかしダイヤモンドは、その症例を綿密に調査することを決意する。

その決意の裏にある動機は純粋な科学的探究心だった、とダイヤモンドは言うが、マネーとの論争に個人的な思い入れがあったとしても不思議ではない。『男と女、男の子と女の子』のなかで双子の症例を紹介したつぎの章で、マネーは、ダイヤモンドや自分の理論に異議を唱える者たちを激しく非難している。自らの立場をふたたび述べたマネーは、辛辣な調子でこう記している。「これ以上この点について議論を続けるのは無意味であるが、いまだに理解できないでいる者たちがいるのも事実である」 さらにマネーは、ダイヤモンドやその他の学者たちの研究を「半陰陽を患う未知数の若者たちの人生を台なしにするものである」と酷評している。

◆マネー博士が双子に施した、12年間におよぶ「精神的調整」

双子が成長するにつれ、マネーの質問はいっそう露骨になっていった。「あの人にいろんなことを訊かれたよ、『女の人とセックスする夢を見たことがあるかい?』とか、『勃起をすることはあるかい?』とかね」とブライアン(双子の弟)は言う。「もちろんブレンダ(双子の姉)にたいしてもおんなじだった。『こんなことを考えるか、あんなことを考えるかって』、ブレンダもいろいろ訊かれたよ」

マネーは双子の性心理を調査するかたわら、ブレンダには女の子としての自己認識を、ブライアンには男の子としての自己認識を確立させようとした。それというのも、マネーが掲げる理論のひとつには、子供たちが自分たちの性図式(ジェンダースキーマ マネーの造語)を形成するには、きわめて早い時期に男性と女性の性器の違いを理解しなければならないというものがあり、そのためにはポルノグラフィを用いるのが理想的であるとマネーは信じていた。「あからさまな性描写のあるポルノ写真は」とマネーは『性の署名』のなかで書いている。「子供の性教育の一環として使えるし、実際使われるべきである」とマネーは言う。

「あの人は何かにつけて、服を着てない男の子や女の子の写真を見せたよ」とブライアンは言う。デイヴィッドの記憶では、マネーは性行為をしている大人たちの写真も見せたという。「あの人はこう言ったんだ、『きみたちに見せたいものがある、パパやママがいつもしていることだよ』ってね」

デイヴィッドやブライアンによると、マネーには二重人格的なところがあったらしい。「ひとつは母さんと父さんがそばにいるとき」とブライアンは言う。「もうひとつは母さんも父さんもそばにいないとき」 双子の両親が面接に同席しているときは、マネーはまるで身内のようにやさしく、物腰もおだやかだった。ところがいったん両親がいなくなると、即座にいらだちをあらわにし、自分の指示にしたがわない子供たちに腹を立てた。マネーの指示とは、服を脱いで、お互いの性器を調べてみなさいというものだったが、その指示にはどうしてもしたがえなかった、とデイヴィッドとブライアンは言う。

ふたりは知る由もなかったが、マネーが強引に要求した性器の比較は、マネーの理論上、子供たちが男の子として、あるいは女の子としての自己を認識する上できわめて大切なことであり、ブレンダの性転換が成功に終わるという点から見ても重要な意味を持っていた。実際、マネー自身も当時の診療記録のなかでこう強調している。「性図式における最も確固とした基礎は、男性と女性の性器、および生殖行為の違いであるが、われわれの文化はその基礎をなんとかして子供たちから剥奪しようとしている。すべての霊長目は若いうちに自分の性器や相手の性器に興味を持ち、マスターベーションをして、性器を押しつけあったり、交尾のまねをしたりして遊ぶ。霊長目には人間に近い哺乳類はもちろん、人間の子供もふくまれるが、これらの行為の唯一悪い点は、行為じたいを楽しまないことである」

だが子供たちは、無理やり強要されたそれらの行為を楽しむことはできなかった。とくに「性器を押しつけあったり、交尾のまねをして遊ぶ」のは苦手で、ブライアンの記憶では、マネーがそれをはじめて強要したのは、ふたりが6歳のときだったという。デイヴィッドとブライアンが受けた数々の治療のなかでも、この特殊なカウンセリングはふたりに深い傷を残した。

◆ジェンダー・アイデンティティと性的指向は先天的なもの

1994年の冬にダイヤモンドが書いた論文には、マネーが証明したこととは正反対の生き証人として、デイヴィッドの人生が描かれていた。ダイヤモンドは50年代後半に行われたカンザス大学チームの研究を例に挙げ、デイヴィッドの症例はジェンダー・アイデンティティと性的指向がおもに先天的なものであるという証拠であり、それは出生前のホルモンの分泌や、脳と神経系へのホルモン以外の遺伝的影響によって形成されるもので、だれでも性転換にたいして容易に順応できる能力があるという柔軟説には限界がある、と論じた。さらに、環境や養育は表面的な男らしさや女らしさを形成する手助けにこそなりうるが、自分自身が男(男の子)、あるいは女(女の子)であるという内なる意識を形成するのは、先天的な要因がはるかに勝っていると主張した。

ダイヤモンドの論文は、セクシャリティは神経生物学に基づくことを証明する数々の事例証拠を提示した点で力強い説得力があったが、同時にそれは、新生児に性別再判定手術を施す危険性を医師たちにはっきりと警告した論文でもあった。ダイアモンドは性別再判定手術は、デイヴィッドのように正常な生殖器と神経系を持って生まれた新生児にとってだけではなく、半陰陽の新生児にとっても同様に誤った方法であると説明した。さらに、一介の医師がそのような幼児のジェンダー・アイデンティティがどとらに分化するかを予測するなど不可能であり、手術で別の性に転換してしまうのは、少なくともその子たちの半数をデイヴィッドのような苦しい目にあわせることになると主張した。

以上のことを踏まえたうえで、ダイヤモンドとシグムンドソンはあいまいな生殖器を持つ幼児の扱いを示す新しいガイドラインを提案した。つまり、子供は男女の性別を明確にして育てる必要がある点を考慮し、医師たちにいままでどおりしっかりと性を割りあてるよう薦めたのである。ただし、それは髪の毛の長さ、服装、名前に関してのみで、自分がどちらの性に近いかを子供たち自身がはっきりと自覚し、明確に表現できる段階に成長するまで、取り返しのつかないいかなる手術も延期するべきである、とふたりは述べた。ダイヤモンドが私に語った言葉を借りるなら、「どちらかの性に一貫して子供を育てる。ただし、絶対にメスで切るのは避けること」ということである。

◆真性半陰陽者として生まれ、性別再判定手術で女にされたチェイス

デイヴィッド・レイマー同様、チェイスも出生時の真実を知らされずに育てられた。そしてデイヴィッド同様、なんの説明もなされない不可解な手術や、性器と直腸の検査を定期的に受ける幼少期の過ごした。そしてデイヴィッド同様、自分の性に混乱をおぼえながら成長した。(*女として育てられたが、チェイスのジェンダー・アイデンティティは男だった。)

19歳になったシェリル(チェイス)は、自分にたいして行われた治療に関するいくつかの事実を調べあげ、幼少期にクリトリス切除手術を受けたことを知り、さらなる治療記録を調査し始めた。しかし、誕生したときの状況を明かしたくない医師らに妨害を受け、治療記録を公開してくれる医師を探しだすまでに3年の年月を要した。医師たちが自分を性腺の中に卵巣と精巣を持つ患者、すなわち「真性半陰陽者」という診断を下した記録を目にしたのはそのときだった。そしてそのときはじめて、自分が最初の18ヶ月をチャーリーという名の男の子で過ごしたことを知った。両親、医者、叔母、叔父、祖父母、そして家族の友人全員が共謀して、この秘密を隠していた。8歳のとき受けた手術(「胃痛」を治療するための)は、実際には性腺の精巣部分を切除するためのものだったこともわかった。

自分へのあざむきにたいする恐怖といきどおり、そしてクリトリスを喪失し、オルガスムを感じられなくなった苦しみから、チェイスは自分と同じ立場の人びとを探しはじめた。医学雑誌、雑誌、編集者への手紙、ニュース記事、ホットラインの一覧表、そして最終的にはインターネットを通じて、アメリカ全土の街を網羅する半陰陽者のネットワークをつくりあげた。1993年、チェイスはそのグループを「ISNA(半陰陽者協会)」と名付けた。それは数々の活動家たちからなる、仲間を支援し、弁護する団体だった。

チェイスは自分自身と仲間の半陰陽者たちの体験を武器に、ジョンズ・ホプキンス大学病院で始められた、半陰陽者の治療に関するプロトコルの危険性を医療機関に訴えはじめた。ISNAが目指したのは、幼児に対する生殖器手術を撤廃することで、それは小陰茎症の男の子たちの去勢や性転換に限ったことではなかった。しかしチェイスは決して、生命を救う手段としての生殖器手術に反対したのではなく、新生児に施される医学的に不必要な外科処置を「野蛮」だと糾弾していたのだ。実際、それは性欲や生殖機能に取りかえしのつかない影響を及ぼす可能性があった。チェイスの究極の目的は、「他人と違うことがまるで怪物であるかのような考えをなくすこと」だった。

toiletメモ

・『松嶋×町山 未公開映画を観るTV』 ドキュメンタリー映画「Prodigal Sons (放蕩息子たち)」2011年2月18日&2月25日放送> 本作品の監督キンバリー・リードは、性転換をし、女性になって初めて参加する同窓会に緊張していた。だがそれより気がかりなのは養子の兄、マークとの関係。キンバリーは兄の生みの親を探すが、なんとマークは、映画史上最大の映画監督オーソン・ウェルズと当時のセックスシンボル、リタ・ヘイワースの息子だった・・・。 *放蕩息子のたとえ話

・2007年12月に鑑賞した映画『トランスアメリカ

・いずれ読んでみたい漫画『IS ~男でも女でもない性~

セクシャルマイノリティ LGBT week 2010年5月

・TBSラジオ『Dig』 Dig Choice「セクシュアルマイノリティを理解しよう」 2010年5月放送

・読売新聞 yomiDr. 性同一性障害…心の性、診断は焦らず 思い込みの人も/十分なカウンセリング必要 横浜市の日野病院(精神科)には、全国でも珍しい性同一性障害の専門外来がある。担当する副院長の松永千秋さん(52)は、自らこの障害に悩んできた。 2010年6月

・雑誌『GQ JAPAN 2011年4月号』・特集「世界を動かす巨大マーケット!THE POWER OF LGBT」 アメリカでは約77兆円とも目される巨大市場のLGBT。レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーらセクシャルマイノリティという、世界をリードする注目のマーケットを徹底解剖します。また、トム・フォード、レディー・ガガ、リッキー・マーティンをはじめ、政治、経済、スポーツなどグローバルな活躍をみせるパワーゲイ33人を一挙に紹介するとともに、日本のLGBT市場にも迫ります。

・TBSラジオ『キラ☆キラ』 2011年03月01日(火)オープニング☆トーク 雑誌『GQ JAPAN 2011年4月号』LGBTマーケット特集を読んで。

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コメント

nono1もジェンダーのことは気になる。
私はからだの性もこころの性も男性だけど。

◆同一個人のもつ性の多様性 ってところ関心あり。bookpencil


投稿: nono1 | 2011年3月 6日 (日) 20時38分

うんうん。
性別が違っても性の一致がある点は同じだし、
「同一個人のもつ性の多様性」に私も興味がある。

『性の境界』はそういった視点では物足りない。
著者は医師なので医学的立場から
性の不一致の原因と治療に焦点を当てている。

どういう視点でジェンダーにアプローチしたらいいのか
あれこれ考え中。。。

投稿: さくらスイッチ | 2011年3月 7日 (月) 19時29分

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