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2009年12月10日 (木)

148『一九八四年[新訳版]』 ジョージ・オーウェル 初版2009年

ビッグ・ブラザーがあなたを見ている

戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり

2+2=

20091209

pig原題

Nineteen Eighty-Four (1949) イギリス

pig概要

ビッグブラザー復活! 二十世紀世界文学至高の傑作が新訳版で登場!

〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が支配する全体主義的近未来。ウィンストン・スミスは真理省記録局に勤務する党員で、歴史の改竄が仕事だった。しかし彼は、以前より完璧な屈従を強いる体制に不満を抱いていた。ある時、奔放な美女ジュリアと出会ったことを契機に、伝説的な裏切り者が組織したと噂される反政府地下活動に惹かれるようになるが・・・。

pig読むきっかけ&目的&感想

以前からいつか読んでみようと思っていたし、新訳の発刊によって心のハードルが低くなったというのもある。そして何より、村上春樹『1Q84』でメタファーとして使われていた‘ビッグブラザー’の出典が、この『一九八四年』なので読んでみる気になった。

さくら好み ★★★★☆

全体主義社会を扱った近未来映画『Vフォー・ヴェンデッタ』『時計じかけのオレンジ』『トゥモロー・ワールド』を連想した。というか、映画(原作)がこの本の影響を受けているんだね。フィクションだからこそ描ける「今」を垣間見る事が出来て凄く面白かった。

pig覚書

◆<思考犯罪>と呼ばれる罪

ビッグ・ブラザーをやっつけろ
ビッグ・ブラザーをやっつけろ
ビッグ・ブラザーをやっつけろ
ビッグ・ブラザーをやっつけろ
ビッグ・ブラザーをやっつけろ

こう繰り返して、頁の半分を埋めた。彼は否応なく差し込むような恐怖に襲われた。馬鹿々々しい。というのも、他ならぬこうした文字を書き連ねたといっても、日記を書き始めるというそもそもの行為ほど危険ではなかったからだ。それでも少しのあいだ、彼は駄目にしてしまった頁を剥ぎとり、日記をつけるという企てをすっかり放棄したい誘惑に駆られた。

しかし彼はそうしなかった。そんなことをしても無意味だと分かっていたのだ。“ビッグ・ブラザーをやっつけろ”と書こうが、書くのを思い留まろうが同じこと。日記を続けようが続けまいが同じこと。どちらにしろ<思考警察>に逮捕されるだろう。罪を犯したのだ――たとえ紙に文字を書かなかったとしても犯したことになる。それは他のすべての罪を包摂する本質的な罪、<思考犯罪>と呼ばれる罪なのだ。<思考犯罪>はいつまでも隠し通せるものではない。しばらくは、もしかすると数年間でも、うまく逃げおおせるかもしれない。しかし遅かれ早かれ、連中によって必ず逮捕されるのだ。

◆未来へ 或いは過去へ

未来へ、或いは過去へ、思考が自由な時代、人が個人個人異なりながら孤独ではない時代へ――真実が存在し、なされたことがなされなかったことに改変できない時代へ向けて。画一の時代から、孤独の時代から、<ビッグ・ブラザー>の時代から、<二重思考>の時代から――ごきげんよう―

◆「どれくらいのことをする覚悟がありますか?」

「それではゴールドスタインという人物はいるのですね?」ウィンストンは言った。

「そうです。そういう人物はいる。そして生きています。どこにいるか、それは分かりませんが」

「そして例の陰謀――例の組織は? 本当に存在するのですか? <思考警察>がでっち上げた話ではないのですか?」

「ええ、実在します。われわれは、<ブラザー同盟>と呼んでいます。<ブラザー同盟>については、それが存在しており、自分はその一員である、という以上の知識を得ることは今後もまずないでしょう。その点はひとまず棚上げします」彼は腕時計を見た。「<党中枢>のメンバーといえども、テレスクリーンを三十分以上切っておくのは賢明ではない。お二人は一緒にここに来るべきではなかった。帰るときは別々に出てもらいます。同志、あなたが」――彼はジュリアに向かってうなずいてみせた――「まず先に出てください。さて、使える時間はおよそ二十分。お分かりいただきたいが、まずいくつか質問をしなければならない。一般的に言って、どれくらいのことをする覚悟がありますか?」

「できることでしたら何でもやります」ウィンストンは言った。

オブライエンは座ったまま少し身体を動かして、ウィンストンと面と向かい合う。ジュリアをほとんど無視する形になった。当然ウィンストンが彼女の代弁をするものと思っているようだった。少しのあいだ、彼はまばたきを繰り返した。それから低い無表情な声で質問を始めたが、これは教理問答のように型通りのお決まりの儀式であって、答えの過半はすでに承知しているかのようだった。

「命を投げ出す覚悟は?」

「あります」

「殺人を犯す覚悟は?」

「あります」

「無辜の民何百人に死をもたらすかもしれない破壊活動でも、それを実行する覚悟は?」

「あります」

「祖国を外国に売る覚悟は?」

「あります」

「詐取、捏造、脅迫を厭わず、子供たちの心を堕落させ、習慣性の麻薬をばら撒き、売春を奨励し、性病を蔓延させる――つまり、党の士気を弱め、党を弱体化させるであろうと思われることなら何でも行なう、それだけの覚悟があるか?」

「あります」

「例えば、もし子どもの顔に硫酸をかけることが、どうしたものかわれわれの利益になるとしたら、そうする覚悟は?」

「あります」

「それまでの自分のアイデンティティを失ってしまい、残りの人生をウェイターなり港湾労働者として過ごす覚悟は?」

「あります」

「もしわれわれが命じたときに、自殺をする覚悟は?」

「あります」

「お二人への質問になるが、お互い別れ別れになって二度と会えなくなっても構わないという覚悟は?」

「ないわ!」ジュリアが急に割り込んで言った。

ウィンストンは自分が答えるのにずいぶん長い時間がかかったような気がした。しばしことばを発する力さえ奪われたように思われた。一つの単語の頭の方の音節を、それから次の単語の音節を発するように舌は動くのだが、なかなか声が出ないまま、何度もそれを繰り返すだけ。口に出すまでは、何という単語を言おうとしているのか分からない有様だった。「ありません」どうにかこうにか彼は言った。

「わたしの質問によく答えてくれました」オブライエンが言った。「われわれはすべてを知っておく必要があるのでね」

彼はジュリアの方を向いて、それまでよりは幾分感情のこもった声で付け加えた――

「お分かりでしょうが、もし彼が生き延びるとしても、それは別の人間としてということになるかもしれないのです。われわれとしてはやむを得ず、彼に新しいアイデンティティを付与することになるかもしれない。顔も動作も手の形も髪の色も、さらには声さえも変わってしまうでしょう。それにあなた自身が別の人間になっている可能性だってある。われわれの外科医は見分けがつかないくらい顔かたちを変えてしまえるのです。ときにはそうしたことも必要なわけでね。手足を切断することだってある」

ウィンストンはもう一度、マーティンの黄色人種特有の顔を横目で見ずにはいられなかった。手術痕と分かる傷は見えない。ジュリアは少し青ざめていて、そばかすが目立つようになっていたが、オブライエンを前にして臆するところがなかった。彼女は小声で答えた。どうやら承知したと言ったらしい。

「よろしい、決まりだ」

◆絶対不問の本能が潜んでいる

われわれを統治している四つの省の名前までもが、厚かましくも、意図的に現実に反する名前となっている。平和省は戦争に関わり、真理省は虚偽に、愛情省は拷問に、そして潤沢省は飢餓と関わっている。こうした矛盾は偶然でもなければ、一般的な偽善から生じたわけでもない。それらは二重思考の計画的な実践である。というのも、相容れない矛盾を両立させることによってのみ、権力は無限に保持されるからだ。これ以外のやり方では、昔からの循環を断ち切ることができない。もしも人間の平等が永遠に避けられるべきものであるなら――もしわれわれが呼ぶところの上層グループが、永久にその地位を維持するつもりなら――広く人々の間に見られる精神状態は、統制された狂気でなくてはならない。

しかしこの瞬間まで我々が無視してきた問題がひとつある。即ち、人間の平等は何故に避けられねばならないのか、という問題である。その過程に於ける操作方法が、これまで正しく述べられてきたとすれば、ある特定の時期に歴史を凍結させようとする、この厳密に計画された大変な努力は、そのような動機に基づくものなのか。

ここにおいて、われわれは主たる秘密に行きあたる。これまで見てきたように、党の神秘的な雰囲気、とりわけ党中枢部の神秘性は、二重思考に依存している。しかしそれよりももっと深いところに、本当の動機、即ち、まず権力を握らせてから、二重思考、思考警察、継続的な戦争状態、その他のあらゆる必要な付属物を作り出した絶対不問の本能が潜んでいる。この動機を実際に成立させているのは・・・

トマス・ピンチョンの解説から一部抜粋

<二重思考>はオセアニアを統治する各章の背後でも作用している。平和省は戦争を遂行し、真理省は嘘を吐き、愛情省は党の脅威になりそうな人物を片っ端から拷問し殺していく。

もしこれが馬鹿馬鹿しいほど異常に思われるなら、現在のアメリカ合衆国に目を向けて欲しい。

戦争を造りだす装置が“国防省”と呼ばれていることを疑問に思っている人はほとんどいない。同時に、司法省がその恐るべき直轄部門であるFBIを用いて、基本的人権を含む憲法の保障する権利を踏みにじっていることは、十分な証拠が書類として提出されているにもかかわらず、我々はその省を真顔で“ジャスティス(正義の省)”と呼んで平気でいる。表向きは自由とされている報道機関も、常に“バランスの取れた”報道をすることが求められ、あらゆる“真実”は、同等の価値を持つ正反対の情報によって即座に去勢される。

世論は日々、修正された歴史、公式的な記憶喪失、明白な嘘を与えられているのだが、そうした情報操作はすべて好意的に“スピン(ひねった解釈)”などと呼ばれ、楽しげにスピンするメリーゴーラウンドと同様、何の危険もないと考えられている。我々は伝えられることが真実でないと知りながら、それが真実であって欲しいとも思っている。信じると同時に疑っているのだ。結局、多くの問題に対して簡単に態度を決めずに少なくとも二つの見解を持つことが、現在の超大国における政治思想の状況ではないだろうか。

言うまでもなく、その地位に、可能であれば永久に、留まりたいと望む権力者にとって、これは計り知れないメリットがある。

◆『1984年』の世界のおおまかな地図

ピンクはオセアニア、オレンジはユーラシア、黄緑はイースタシア。間の白い地域は紛争地域である。

1984_fictious_world_map

 

2+2=5

 

pig著者

Georeorwell ジョージ・オーウェル(George Orwell, 1903年6月25日 インド - 1950年1月21日 ロンドン)は、イギリスの作家。

本名はエリック・アーサー・ブレア(Eric Arthur Blair)。著作『1984年』は全体主義的ディストピアの世界を極めて説得力のある形に書き上げたため、そういった社会を「オーウェリアン」(Orwellian)と呼ぶ。

1950年、ロンドンにおいて46歳の若さで死去した。

 

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< 『1Q84』、関連本 >

108 『1Q84 BOOK1,BOOK2』 村上春樹 初版2009年

114 『村上春樹『1Q84』をどう読むか』 河出書房新社編集部 (編さん)  初版2009年

125,126 『アンダーグラウンド』 初版1997年、『約束された場所』 初版1998年 村上春樹

148 『一九八四年[新訳版]』 ジョージ・オーウェル 初版2009年

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