« 087『点 -ten-』 宇多田ヒカル 初版2009年 | トップページ | 089『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』 門田隆将 初版2008年 »

2009年5月 8日 (金)

088『身近な雑草のゆかいな生き方』 稲垣栄洋 三上修・絵 初版2003年

雑草の生き残り戦略 ^^

Dvc00003

clover概要

本書では、ハコベやオオバコ、スミレやタンポポなど、身近な50種類の雑草を取り上げて、その生き抜く力、子孫を残そうとするさまざまな知恵と工夫をユーモアあふれる筆致で描く。踏まれても抜かれてもなお伸びる、その力の源は何か。どんな秘密が隠されているのか。ナズナ、オオバコなど、身近な雑草50種の知られざる生態と生き残り戦略を描く。

clover読むきっかけ&目的&感想

毎年、花咲く春になると、植物の本を読みたくなる。このブログには記録しなかったけど、今年の春にも植物辞典的な本、植物エッセイ的な本を4,5冊読んだ。その流れで図書館の本棚を眺めていたら、この本も面白そうだったので借りてみた。

さくら好み ★★★★☆

想像以上に面白かった。生き抜くために戦略を巡らす存在として雑草を擬人化した表現が妙に可笑しくて、読み進めるのがとても楽しかった。取り上げている雑草も、よく知っているものから、姿は知っていても名前を知らなかったもの、姿も名前も知らないものまで当然ながらあったけど、どの項も興味深くとても面白かった。

clover覚書

◆スミレ ~野に咲く花のシティライフ~

<種まき戦略>

山路来て何やらゆかし菫草(『野ざらし紀行』)

松尾芭蕉の句に詠まれるように、スミレは山道のやや明るいところによく生えている。しかし、山野に咲くイメージが強いスミレも、気をつけてみるとコンクリートの割れ目や石垣の隙間など、街のなかでも見ることができる。

スミレの種子には「エライオソーム」というゼリー状の物質が付着している。この物質はアリの好物で、お菓子の「おまけ」のような役割を果たしている。子どもたちが「おまけ」欲しさにお菓子を衝動買いしてしまうように、アリもまたエライオソームを餌とするために種子を自分の巣に持ち帰るのだ。このアリの行動によってスミレの種子は遠くへ運ばれるのである。

しかし、アリの巣は地面の下にある。地中深くへと持ち運ばれたスミレは芽を出すことができるのだろうか。もちろん心配はご無用。これも計算のうちである。アリがエライオソームを食べ終わると、種子が残る。種子はアリにとって食べられないゴミなので、巣の外へ捨ててしまうのだ。このアリの行動によってスミレの種子はみごとに散布されるのである。

アリの巣は必ず土のある場所にある。街のなかではアリの巣の出入り口はアスファルトやコンクリートの隙間をうまく利用している。野の花のイメージが強いスミレが街の片隅のコンクリートの隙間や石垣に生えているのは、わずかな土を選んでアリに種を播いてもらっているからにほかならない。そのうえ、アリのごみ捨て場所には、ほかの植物の食べかすなども捨てられているから、水分も栄養分も豊富に保たれているという特典つきである。

<受粉戦略その1>

Viola_mandshurica スミレは花にも驚くべき秘密がある。スミレの花をよく見ると、花を長くして後ろへ突き出た形になっている。この突き出ているのが「距(キョ)」と呼ばれる部分である。距は蜜の入れ物になっている。茎は前方の花の部分と後方の距の真ん中についていて、やじろべえのようにバランスをとっている。花を長くするために、中央でバランスをとるような構造になっているのである。

そうまでして花を長くしたのには理由がある。花にはさまざまな虫が訪れる。花粉を運んでくれる虫もいれば、花粉を運ばずに蜜だけを盗んでいく虫もいる。スミレは玉石混淆の虫のなかから、真に花粉を運んでくれるパートナーを選び出さなければならない。そのために長い花を作り上げたのである。

『イソップ物語』の「ツルとキツネ」では、ツルがごちそうした長い筒状の容器では、キツネはスープを飲むことができなかった。代わりにキツネがごちそうした平たい容器では、ツルはスープを飲むことができなかった。スミレの花粉を運んでくれるのは、舌を長く伸ばすことのできるハナバチの仲間である。だから、ツルの話と同じように長い筒状の容器を用意すればいい。これがスミレの花が長くなった理由である。

花のなかを覗いてみると、雌しべのまわりには膜があって、ちょうど片手で水をすくうときのような形になっている。片手の中指の部分が雌しべになっていて、雌しべと膜とで花粉を入れる容れ物となるのだ。そして、雄しべは花粉をこの容れ物のなかにすべて落として入れてしまうのである。

これで準備は整った。ハナバチが訪れて、花のなかに頭を突っ込むと、五本の指から中指が離れるように雌しべの部分がずれて容れ物に隙間ができる。そして、花粉がこぼれ落ちてハナバチの頭に降り注ぐのである。忍者屋敷のしかけを連想させるような何とも手の込んだ構造になっている。

<受粉戦略その2>

しかし、こんなに用意周到に準備して待っていても、春を過ぎるとハナバチはすっかり訪れなくなってしまう。そのころになるとスミレはつぼみ(蕾)のまま、花を咲かせなくなる。別にふててしまったわけではない。つぼみのなかで雄しべが雌しべに直接ついて、受粉してしまうのである。開くことなく種子をつけるこの花は「閉鎖花」と呼ばれている。閉鎖花は最初から咲く気がないのである。

たしかに、自分の花粉をつけるよりも他の花から運んでもらった花粉をつけるほうがいい。そのほうが、さまざまな遺伝子を持つ子孫を残すことができるからである。しかし、それはハナバチが訪れてくれればの話である。いくら理想を語っても種子が残せなければ意味がない。そこで次善の策として自分の花粉で受精するのである。

この閉鎖花にもメリットはある。一つは虫まかせな方法に比べて、確実に種子を残すことができる。さらに季節にも左右されないので、ハナバチが訪れなくなった夏から秋まで種子の生産が可能である。もう一つは、コスト削減が可能な点にある。虫を呼び寄せるための花びらも蜜も必要ない。花粉も受精に必要な最低限の量を用意すればいいのだ。

ひっそりと咲くスミレを「ゆかしい」と評した松雄芭蕉も、もしこの花のしたたかさを知ったなら、一体どう表現しただろうか。

◆スズメノテッポウ ~異能集団は逆境に強い~

<植物のジレンマ>

Suzumenoteppou_1 穂を抜いた茎で笛を作ることから、「ピーピー草」とも呼ばれるスズメノテッポウは、早春の田んぼや畑に見られる代表的な雑草である。ところが、同じスズメノテッポウでも田んぼに生える「水田型」と畑に生える「畑地型」とは違った性質を持っていることが知られている。その主な違いは種子の大きさと生殖の方法である。

大きい種子と小さな種子には、それぞれメリット、デメリットがある。大きい種子は栄養分をたくさん蓄えているので、発芽の力が強く生存競争に有利である。しかし、種子生産に費やすことのできるエネルギー量は限られているから、大きい種子を残そうとすれば、生産される種子の数は少なくなる。逆に種子のサイズを小さくすれば、たくさんの種子を残すことができるが、発芽の力が弱く生存率も低くなる。

生殖の方法についても二つあり、それぞれメリット、デメリットがある。自分の花粉を自分の雌しべにつけて種子を作る自家受粉と、他の花の花粉をつけて種子を作る他家受粉である。自家受粉は自己完結で種子を残せるので、仲間がいなくても確実に種子を残すことができる。ただし、種子はすべて親の遺伝子を引き継ぐので、親の持っている範囲の能力しか残すことができない。遺伝的な多様性が低くなってしまうのである。その点、他家受粉は他の固体と交わるのでさまざまな遺伝子の組み合わせができ、親とは異なる能力を持った種子ができる。しかし相手がいなければ受精することができない。受粉効率も低いので花粉の量もよけいに用意する必要も出てくる。

少しの大きい種子か、たくさんの小さい種子か。相手がいなくても確実に種子が残せる自家受粉か、さまざまな子孫を残せる他家受粉か。すべての植物はこの大きなジレンマを抱えている。どちらが有利かは状況によって変わるので、植物はそれぞれが最適と思う種子のサイズや自家受粉と他家受粉のバランスを決めている。

<スズメノテッポウの選択>

興味深いことに、同じスズメノテッポウでも「水田型」と「畑地型」とはそれぞれ異なる選択肢を選んでいる。水田型は「大きい種子・自家受粉」を、畑地型は「小さい種子・他家受粉」を採用しているのである。

畑は田んぼと違ってさまざまな作物を作るので、いつ耕されるかは決まっていない。畑地型のスズメノテッポウはいつ耕されてもおかしくないという過酷な状況のもとで毎日を過ごしている。こういう条件下では、とても手間をかけて他家受粉している余裕がないように思う。リスクも大きい。しかし、厳しい環境だからこそさまざまなタイプの子孫を残しておく必要があるということなのだろう。変化が激しい畑では、自分と同じタイプがつぎの世代で成功するとは限らない。予測不能な状況であればあるほど、多様性のある集団のほうが生き残る可能性が高い。だから、種子をできるだけたくさん残すことを優先し、たとえ小さくともバラエティに富んだ後継者を送り出したほうが有利なのである。

一方、稲作を行なう田んぼは、農作業の時期はおおよそ決まっている。そのため、水田型のスズメノテッポウはその複雑な農事暦に適応した専門家集団として発達した。そして、さらに自家受粉によってその「技」を頑固に引き継いでいったのである。一子相伝ではないが、大きく充実した少しの種子を残し、自分の能力を確実に後世に伝えてきたのだ。

<時代に合わなくなったマニュアル>

ところがである。水田型のスズメノテッポウに不慮の事態が起こっている。時代は変わり、昔に比べて稲刈りの時期が大幅に早まってしまった。そのため、水を落とす稲刈り時期に合わせて発芽するスゼメノテッポウの生育は早まり、本来ならば春に穂を出すはずだったのが、冬になる前に穂を出して寒さで枯れてしまう事態になってしまったのである。

これまで築きあげてきた水田型スズメノテッポウの成功マニュアルが時代に合わなくなってしまったのだ。皮肉なことに、水田型のスズメノテッポウはさまざまなタイプの子孫を残してこなかったので、いまだにこの難局を打開する改革者は誕生していない。頑固な専門家集団は、今、時代のうねりにさらされているのである。

◆タンポポ ~ついに勃発したクローン戦争~

<在来タンポポと外来タンポポの見分け方>

Tannpopo タンポポには大きく分けて二つのグループがある。一つはカントウタンポポやカンサイタンポポに代表される日本にもともとある在来タンポポ。もう一つはセイヨウタンポポやアカミタンポポなど明治以降に外国からやってきた外来タンポポである。在来のタンポポと外来のタンポポは花の下側にある総包片で簡単に見分けられる。外来タンポポは総包片が反り返るが、在来のタンポポは総包片が反り返らない。この違いから在来タンポポと外来タンポポの分布を調べるタンポポ調査が各地で行なわれている。

<戦力分析>

在来タンポポと外来タンポポとは激しく勢力圏を争っている。俗に「タンポポ戦争」と呼ばれているほどだ。それでは、在来タンポポと外来タンポポ、両者の戦力分析をしてみよう。

花の咲く時期はどうだろう。在来タンポポは春しか花を咲かせることができないが、外来タンポポは一年中いつでも花を咲かせることができる。何度でも花を咲かせ、種子を作ることが可能なのだ。

種子の生産数はどうだろう。在来タンポポは花も小さく種子の数も少ないのに比べると、外来のタンポポは花が大きく、生産される種子の数が多い。さらに外来タンポポのほうが、種子が小さく軽いのでより遠くまで飛ぶことができる。

さらに外来タンポポはすつうの種子ではなく、クローン遺伝子によって種子をつくる能力を身につけている。クローンで増えるということは、受粉する相手がいなくても一株あればどんどん増えることができることになる。これは新天地に勢力を拡大していくうえで、きわめて有利な性質だ。

戦力分析の結果は、どれをとっても外来タンポポのほうが優勢である。

<勢力分布>

タンポポ調査を行なうと、一般に外来タンポポは都市部に多く、勢力を拡大している。一方の在来タンポポは郊外や田園部に見られ、その分布は減少しつつある。いかにも、外来タンポポが市街地を制圧し、追いやられた在来タンポポが郊外へと落ち延びているようにも見えるが、実はそうではない。そもそも在来タンポポと外来タンポポが戦っているという表現が正しくない。在来のタンポポを郊外へ押しやっている要因、それは人間による環境破壊が主なものである。

種子の小さな外来タンポポは、他の植物との生存競争には決して強くはない。昔からある在来の植物がしっかり生えていれば外来の植物は太刀打ちできず、簡単には生存できないのである。しかし、都市部ではもともとあった自然が破壊されている。ライバルのいない空き地ができて外来タンポポは初めて生存の場所を確保できたのである。そうなれば外来タンポポは強い。一固体あれば種子を生産し、もはや在来タンポポがいなくなった土地に広がっていったのだ。

外来タンポポが広がっているということは、見方を変えれば、人間によって環境破壊された面積が広がっているということに過ぎないのだ。外来タンポポが在来タンポポを駆逐しているというのはまったくの濡れ衣なのである。そのうえ、そう騒ぎ立てているのも人間なのだから質が悪い。

タンポポが人間にとっていつまでも身近な花であり続けるために、外来タンポポはそう願いながら、自然が破壊された都市部で懸命に在来タンポポの代役を務めているのかもしれない。もし、外来タンポポがなかったとしたら、私たちの身のまわりはずいぶん殺風景なものになってしまわないだろうか。

<遺伝子レベルで侵入>

お礼をいわれてもいいくらいなのに、さんざん悪者扱いされた外来タンポポは、それならばと本気で勢力拡大に乗り出した。最近になって、本来は在来タンポポの勢力圏であるはずの場所で、外見からは外来タンポポと判断される固体が増加しつつあるのである。

ホラー映画「パラサイト・イブ」では人間の細胞内に共生するミトコンドリアが反乱を起こし、自らの遺伝子を組み込んで宿主である人間を乗っ取ってしまう。同じように外来タンポポも遺伝子レベルで在来タンポポに侵入する作戦にでたのである。

外来タンポポの花粉を在来タンポポに受粉して、雑種を作ると二分の一が外来タンポポの遺伝子となる。その雑種にさらに外来タンポポの花粉を受粉すれば四分の三。こうしてだんだんと血を濃くしながら在来タンポポの体を汚染していくのである。雑種はクローンの種子を作って増殖しながら、一方で、さらに在来タンポポと交雑していく。

不公平なことに、外来タンポポはクローン種子で増えるので、もともとの純血の固体は減ることなくしっかりと残っていく。一方の在来タンポポはたまらない。種子をつくるためにはどうしても他の固体と交雑しなければならないから、雑種化する可能性がしだいに高くなっていくのだ。

外来タンポポはこうして在来タンポポを雑種化し、純血の在来タンポポを減少させていく。郊外で外来タンポポが増えたように見えたのは、雑種になって在来タンポポの遺伝子をうまく取り入れていったからであった。

「まわりに大勢いたはずの仲間は、知らぬ間にみんなエイリアンに乗り移られていた」

在来タンポポは今、そんなSF小説顔負けの恐怖のなかにあるのである。

◆ホトケノザ

Hotokenoza_1

◆カラスノエンドウ

Karasunoenndou

Karasunoenndou_2

◆カタバミ

Katabami

◆ナズナ

Nazuna

◆オオイヌノフグリ

Ooinunofugugri

◆シロツメクサ

Sirotumekusa

Sirotumekusa_2

◆スベリヒユ

Suberihiyu

◆スギナ

Sugina_1

◆スズメノカタビラ

Suzumenokatabira

Suzumenokatabira_1

◆ヒメジョオン

Dvc00006

◆山は緑・・・ ^^

20090504

|

« 087『点 -ten-』 宇多田ヒカル 初版2009年 | トップページ | 089『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』 門田隆将 初版2008年 »

コメント

うーん 植物って面白いね!
それにしても写真がキレイ!!

投稿: nono1 | 2009年5月 8日 (金) 06時22分

花が咲くと 日ごろ目に留めない植物に気付かされる
それは雑草も然り ^^
名前を知ると 雑草が雑草じゃなくなるのも面白い

写真 褒めて貰えて嬉しい!! shine

投稿: さくらスイッチ | 2009年5月 8日 (金) 20時36分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 087『点 -ten-』 宇多田ヒカル 初版2009年 | トップページ | 089『なぜ君は絶望と闘えたのか 本村洋の3300日』 門田隆将 初版2008年 »