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2009年5月23日 (土)

093『続・インドの衝撃 猛烈インド流ビジネスに学べ』 NHKスペシャル取材班・編著 初版2009年

インドビジネスの今

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key概要

「貧困層」相手の超低価格ビジネスとは? 日本を狙う「製薬大国」の実力とは? 世界中を席捲する「印僑」パワーとは? 大反響を呼び、シリーズ化されたNHKスペシャルを再び単行本化。

key読むきっかけ&目的&感想

『インドの衝撃』が面白かったので借りてみた。

さくら好み★★★★☆

新聞も雑誌もTVも無いメディアダークの場所で、商品を売るというビジネスをどう仕掛けていくか・・・。稼ぐことと消費がもたらす生活の変化、それにともなう価値観の西洋化。混沌としながらも、経済成長を続けるインドの姿を垣間見ることが出来て面白かった。

key覚書

◆農村部の女性がお金を儲ける

インドでは経済発展とともに、都市部などで女性の社会進出が急速に進んでいる。いまや伝統的なサリーを脱ぎ捨て、男性と対等に働く女性も少なくない。実際、二〇〇七年にはインドで初めての女性大統領まで誕生している。

しかし、保守的な風習が残るインドの農村では状況が異なる。農村の貧しい女性を取り巻く現実は厳しいものがあり、地域によっては、十八歳になる前に結婚する人が半数を占めるという。教育の機会を得られなかった農村の女性は職につくことも難しく、ほとんどが家庭の仕事だけをしてきた。農村の女性にとっては現金収入の道は少なく、これが社会的な地位が低い大きな原因ともなってきたのである。

ヒンドゥスタン・ユニリーバ販売員の研修の撮影当日、アンドラ・プラデシュ州の小さな村の公民館に色とりどりのサリーを纏った女性たちが続々と集まり始めた。この日、参加したのは二十代から五十代の女性たち十五人。周辺の村々に住む女性たちだったが、皆、夫や子供を同伴していた。その理由を、そのうちの一人に尋ねると、「女性がたった一人で村から出るのは許されないから」ということだった。

商品の販売など一度も経験したことのない新人女性には、基本的なテクニックから伝授された。もともと帳簿などつけたことのない彼女たち。売り上げを伸ばすには帳簿をつけることがいかに大事かを、スブラマニアム氏は時間をかけて説明する。

皆、真剣な表情でこうした説明を聞いている。

こうした具体的なテクニック論に続き、スプラマニアム氏は「自ら金を稼ぐことで自立への道が開ける」と、お金を儲けることの意義を強調した。

「『シャクティ』とは『強さ』という意味です。私たちは皆さんに強くなってほしいのです。また、ビジネスを通して強さを養うのです。ビジネスでは、『強さ』というのは『お金』を意味します。そうじゃありませんか? ビジネスが成功すれば幸せですね。また我が社の販売が伸びれば私も嬉しいです」

研修の参加者に話を聞いてみると「以前は欲しいものを買う時も夫に頼みましたが、いまは自分で欲しいものは買えるようになりました」と経済的な側面を強調する人もいれば、「この仕事を通じて人とも触れ合えますし、社会で何が起きているのかも理解できるようになりました」と社会的な経験を強調する人もいた。

実際、レディさんの家族の生活は大きく変わった。レディさんは、こうして稼いだお金を子供の将来に使おうと考えている。長女は大学を卒業。今後はコンピューター工学の博士課程に進む予定だという。そして次女も大学進学を目指し、塾に通っている。こうした教育費は、レディさんの収入からまかなわれてきた。長女に話を聞くと、「母の経済的な援助がなかったら大学も卒業できなかったでしょう。将来はソフトウェアの企業で働きたいです。給料もいいし、将来性もありますから」と目を輝かせながら自らの将来を語った。

農家の夫の収入だけに頼っていた不安定な時代と較べても、レディさんの収入によって確実に家族の生活や人生そのものも大きく変わり始めていることが感じられた。

これまで、子供の半分は中学校に行くこともできなかったといわれるインドの農村。ユニリーバのビジネスモデルは結果として、農村の人々の将来も大きく変えようとしている。

◆貧困層向けビジネスが可能になるつつある

八億人が暮らすインドの農村部のように、貧困層とひとくくりにされ未開拓のままになっているとみられる貧困層の規模は世界で四十億人。ITC(インドの複合企業)では、インドでの経験を世界に展開させようと考えている。プロジェクト責任者のシブクマール氏は、まずはインド制覇が目標と前置きした上で、世界戦略について語ってくれた。

「現在、三ヶ国で話し合いが進んでいます。初期段階として、こうした国々へは一千万ドル近く投資することになります。そして、ビジネスモデルが浸透すればもっと拡大するでしょう。アフリカと南アジアにビジネスチャンスがあるのであれば、二十五カ国ほどで同様のビジネスができると考えています。数が多いにもかかわらず、これまで貧困層は無視されてきた。二百万人いる富裕層の方が、四十億人いる貧困層よりも多くの利益が得られると考えられてきたのです。しかし、インターネットの出現や輸送システムによる世界とのつながり、コミュニケーションが発達したおかげで、そうした市場も認識できるようになっているのです」

インドにおけるBOP(貧困層)市場の争奪戦は、政府の市場開放政策によって火蓋がきられたわけだが、アフリカを含めた世界の途上国では各国の障壁が高く、進出が難しい場所もある。インドでも州ごとに変化する税制や土地収用問題など、まだまだ日本からは想像ができない問題が残っているのは確かである。しかし、一旦、インドのBOP市場に入り、手応えをつかみ始めた企業の勢いは止まらなくなっている。インド農村部に商品を売るということは、独自の流通網を築き、農村部で暮らす八億人と意思疎通ができることを意味するからだ。

インド農村部の貧困層を対象にしたビジネスの醍醐味は、「収入を少しでも多く得たい。そして、何か消費してみたい」というマインドを持ち始めた八億人の凄まじいパワーと対峙することにある。貧困層の消費行動を掴み、ぎりぎりの価格設定で、大量に販売する。世界を恐慌に陥れたマネーゲームとは正反対とも言えるような、究極の薄利多売ビジネスが今日もインドの農村部では激しく展開されている。

◆「薬の物質特許は認めない」法律

インドでは一九七〇年、インディラ・ガンジー首相(ネルー元首相の娘)の時代に「薬の物質特許は認めない」という法律を作った。

物質特許とは、「薬がどのような成分からできているか」を示したもので、普通なら特許の対象になる最も基本的な情報である。これを特許として認めないというのは、同じ成分のコピー薬を作ってもかまわないということを意味する。そのため、海外で開発された特許期間中の最新の薬も、インドではコピーして販売できることになったのである。インド国民にとっては画期的な法律だった。

この法律が作られるまで最新の薬については、欧米の製薬会社が特許を握り独占販売をしていたため、インドではとても高価なものだった。当時インドの財務省に勤め、この法律策定にもかかわったB・K・キアラ氏によれば、一九六〇年代前半、アメリカの上院委員会が世界の薬の値段を調査したことがあったが、抗生物質の値段はインドの方が欧米諸国より高かったそうである。インド政府では安価に薬を供給したいので役人をアメリカやイギリスに派遣し、「技術の移転」の要請をしたが、ことごとく断られたという。

結果として、インド政府は「コピーOK」の特許法を作ることになった。庶民に安い薬を広く供給するにはそれしか方法がなかったのである。いまなら国際ルール無視のとんでもない法律ということになるが、キアラ氏に言わせれば、「国民の健康を守る」という意味では当然の法律だったし、薬の安定供給はマハトマ・ガンジー以来、国のリーダーたちの悲願だったという。ただし、何でもコピーがOKだったわけではない。薬の「作り方」については特許が認められた。つまり同じ成分の薬でも製法は特許で守られるため、作り方は変える必要があった。

キアラ氏によれば、薬の世界ではまず作り方に関する特許(製法特許)が導入され、自国で生産するノウハウがついてきたところで、成分に関する特許(物質特許)が導入されるというのが歴史的な流れだという。

いまでは意外な話だが、日本でも昭和五十年までは薬に関する物質特許は存在しなかった。作り方さえ変えれば、合法的に最新の薬を“コピー”できる時代があったのである。

そんな状態だから、インドがコピー薬を作ることは、独立間もない発展途上国としては「当然の権利」だというのだ。薬は命と密接に結びついたものだ。産業が発展するまではコピーを認めようという考え方は、一九七〇年当時の状況を考えれば仕方がないのかもしれない。キアラ氏の明快な解説を聞いてくると「暴論」だと思っていたことが、「正論」に聞こえてくる。

◆インド人の英語力

インドはイギリスの植民地だったし英語が準公用語だからみんな話せるのだろう、と思ったらそれは誤解である。この小学校に入ってきた一年生は、ほとんど英語を話せない。家ではヒンディー語を話しているからだ。しかし、週6コマもある英語の授業によって一年もたてば、十分に話せるようになる。英語の授業は、六年生になっても力を入れられていて、数学と同じく、週七コマの授業が組まれていた。ずっと勉強するから上達するのである。

実はディベートの授業も、しゃべるのは早いが、文法はかなり雑なものだったし、あとでVTRを見ても、意味不明な発言があったのは事実だ。しかし、当たり前のように英語を使うということが、英語を身につけるうえでは非常に重要なのだと実感した。

◆富の扉を作る

日本で起業家セミナーといえば、成功者の体験談を聞いたり、起業の相談をするためには、かなりのお金を払わなければならない。しかし、TiEでは反対である。

レキ氏ら成功した起業家たちは、「Charter Member」としておよそ年二十万円の会費を払って未来の起業家のための活動を支える。一方、起業家の卵たちは会費は無料で、イベントの時に場所代など微々たる参加費を払うだけである。

レキ氏は言う。「とにかく一人でも多く挑戦させることです。そのためには、自分も起業家になれる、と思ってもらわねばなりません。例えば、ビル・ゲイツのような人が起業に成功しても、インド人は誰も自分にもできるとは思いません。見た目も環境も違いすぎるからです。しかし、私のようなインドの普通の家庭出身で、見た目もこんな者でも起業できるとわかれば、自分にもできる、やってみようと思う人が生まれるはずです」

設立から十六年。TiEでは、レキ氏の教えを受けた起業家が次々と成功をおさめ、さらに、次の世代にそのノウハウを伝えている。活動もシロコンバレーから全米各地に広がり、一万人を越える印僑起業家が生まれた。そして、今、レキ氏はこのネットワークを祖国インドで大きく広げようとしている。

「最初はアメリカにおけるインド人のイメージを変えたい、と思っていました。そのためには、富の扉をたくさん作らなければなりません。アメリカで成し遂げたのと同じように、今度はインドで成功者を生む必要があるのです」

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コメント

女性の社会進出についての稿でユニリーバの逸話が出てくるが
インドにおける女性の地位や心情などが具体的に描かれていて理解しやすかった

一般的にインドの初等教育の優れたところや英語が社会のベースになっていること(皆が話せると言うことではないが)
など最近の経済成長におけるインドの優位性のことが語られているが
現実に経済行為に参加して現金を稼ぐことが出来なければさらなる高度な教育を受けることも不可能なわけで
このユニリーバの逸話でああ成る程というリアルな納得感(こういうふうにテイクオフしたんだな!)が得られた

投稿: nono1 | 2009年5月24日 (日) 11時32分

インドの大部分の地域では
男女比率が経済発展のバロメーターになっているらしい
貧しい州だと男女比率が安定しているのに
中流階級が増えている州は男女比率のバランスが急速に悪くなっている
男児より女児のほうがかなり少なくなっているのだ

???と思った gawk

お金を持った中流階級が上位カーストの真似をして
花嫁の家族が多額の持参金(ダウリー)を用意するようになった
テレビ・洗濯機・車と年々派手で高額になっている
つまり 娘を持つことは将来的な負担が大きいことを意味する
「自分の娘を殺すつもりですか?」と喚起するテレビ広告まで出現・・・

ええ~!? ナニソレ! shock

親の決めた結婚をし教育を受けていない村の人たちには
近代化された社会では教育さえ受ければ女性でも稼いで生きていける
という事に気付いていない人が沢山いる
「結婚する女の子に教育は必要ない」「女の子は重荷だ」と考えているのだ

政府の灌漑事業推進により農作物の収穫が上がり収入が増えても
社会の変化に気付いていなければテイクオフ出来ない・・・
ユニリーバ・レディのように
稼ぐと同時に社会で何が起きているかも知る必要があるんだね catface

*男女比率云々のソースは『厄介な経済大国』

投稿: さくらスイッチ | 2009年5月24日 (日) 17時46分

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