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2008年10月11日 (土)

054『スパイスの人類史』 アンドリュー・ドルビー 第1版2004年

代表的な約60種を中心に スパイスと人間の歴史全体を見渡す 

食の文化史

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概要

これまでにも、近代のスパイス貿易の歴史を扱った本はたくさんあった・・・・・だが本書は、そもそもの始まりまで遡って、人類が持つスパイスに関する知識が、世界に広まっていく過程に着目した、最初の試みのはずである。[まえがき]より

人類を魅了し、交易や戦争など歴史をも動かしてきたスパイス。代表的な約60種を中心に、人間とスパイスが織り成してきた壮大な物語を読み解く。スパイスと人間の歴史全体を見渡す、食の文化史。

国際グルメ協会『世界の料理書大会』英語部門最優秀賞(2000)。食物研究家協会「今年の最も優れた本」(2001)。    

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読むきっかけ&目的&感想

スパイス! 使いこなせないのにスパイス好きなあたし。今あたしのキッチンに常備してあるスパイスは、使いやすいものばかり。常備してるスパイスは、粒黒胡椒、クミン、ターメリック、シナモン、生姜(ジンジャー)、ナツメグ、既に配合がしてあり便利なイタリアンハーブミックス、チリパウダー、ガラムマサラ、カレー粉・笑、頂き物で、スパイス・ソルト、ハーブ・ソルトが数種類、買ってみたものの一回しか使っていない五香粉・・・といったトコロだ。

そして今でも時々思い出すのが、インドのホテルで食べた料理、タンザニアのレストランで食べた料理、韓国で食べたキムチだ。美味しいスパイス料理を食べると、あたしも作れたらな~と思うものの、あたしにとっては風味さえ再現が難しい。だからということもあって、「スパイス」にはちょっと憧れに似た想いを抱いている。

さくら好み ★★★☆☆

Sailing_shipちょっと前に読んだコーヒーやチョコレートもそうだけど、スパイスにも、文字通り命がけの航海をしてでも手に入れる魅力があった時代がある。現代のあたしが感じるのとは桁違いに憧れの対象で、時には金と同等の価値を持ち、大航海の目的にさえなり、時には戦争の元にさえなったスパイスさえあるんだよね。

なんて事を想いながら、目の前に自分が持っているスパイスを眺めるのはとても楽しい。という事で、自分の持っていない、あるいは知らないスパイスよりは、自分の知っているスパイスの項の方が断然楽しく読めた。

Wallpaper_002s_3 あと、この本を読む数日前に深夜TV放送された『タッチ・オブ・スパイス』(右画像、制作:2003年 ギリシャ)で、トルコ、ギリシャで、スパイス各種を使って料理する様子も思い出しながら読んだ。スパイスの調合は、家庭の味でもあるんだねぇ。 。。。そして、なんだかとても神秘的でさえあるんだよねぇ。 。。。絵葉書に香水ならぬスパイスの香りを付けるシーンなんかグッときちゃった。スパイスって、香りが要なんだよね。

この本を読んで、忘れていたタンザニアの市場を思い出した。そこでは、あたしの知らない沢山の種類のスパイスが、木箱に入れられて量り売りされていた。そして、密封されていないスパイスの香りがない交ぜになって、魅惑的な香りを放っていた。あたしは数種類を自分用に購入し、日本に戻ってからも(料理には使わないで)時々その香りをかいでは、現地を思い出したりしていた。

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覚書

◆スパイス

スパイスとは、通常の食物や祝祭のごちそう、薬などに使われる香料のことである。天然の産物で、長期の保存や遠路の旅に耐えるように、伝統的な方法で処理されたものである。本書で扱う「スパイス」とは、原産地が遠くて、長距離貿易で取り引きされ、なおかつ珍しい独特の香りを持つものである。

◆目次

第1章 世界史のインセンティブ

シルフィウム  絶滅したスパイス

第2章 スパイス貿易の起源

ジンジャー(ショウガ)  人類史の歩みとともに
砂糖  価格暴落でスパイスの地位を喪失
ビャクダン(サンダルウッド)  芳香に魅せられ各地で移植
メッカ・バルサム  ローマ帝国の戦利品
シナモン  謎に包まれていたルーツ
テジパット  ローマで愛された中国産のスパイス
麝香  シルクロードの香り

第3章 母なるマレー群島

クローブ  伝説のスパイス
ナツメグとメース  スパイスの定番
クベバ  花柳病の秘薬
樟脳  死者に手向けた香料
ベンゾイン  ヒナギクとバニラの香り

第4章 かぐわしき東南アジア

竜涎香(アンバーグリース)  鯨が生み出す芳香
沈香  インドシナの香木

第5章 中国、悠久のスパイス

山椒  中国料理における「コショウ」
ガランガ  中国産とシンドネシア産
ルバーブとリコリス  中央アジアの香り
薬用人参と八角  中国香料のニューフェース

第6章 スパイス王国、インド

プチャクまたはコスタス  インダス川を下ってきたスパイス
スパイクナード  イエスを清めたインドの精油
長コショウ  忘れられたコショウ
黒コショウ  通貨にもなったスパイス
ターメリック  別名「インドのサフラン」
レッド・サンダーズ  「赤ビャクダン」と呼ばれても別種の植物
ゼドアリーとゼルムベット  混同され続けた異種同士
アモムムとカルダモン  名称の交じり合い

第7章 恵み多きアラビア

グッグル  没薬に間違えられた樹脂
アサフェティダ  シルフィウムに似た謎のスパイス
乳香  神秘化された香料
没薬(ミルラ)  拝火教の起源にまつわる香料

第8章 地中海世界の繁栄

コリアンダー  東西に広まったスパイス
クミン、キャラウェイ、アニス、アジョワン、ニゲラ
マスタード(芥子)  ローマ伝来の辛味
ケシ  嗜好品から麻薬まで
マスティック  チューインガムの起源
ストラックス  革袋に盛られ旅をした香料
サフラン  高貴さを象徴する色と香り

第9章 新大陸での発見

ウチュ、ロコト、ウルピカ  ペルーの食文化
ピンク・ペッパー  傷にも効くスパイス
コカ  支配の歴史から生れた麻薬
チョコレート  甘く危険な風味
バニラ  今も高価なスパイス
チリ  世界中に多くの品種が存在
タバスコ・ペッパーとスコッチ・ボンネット
カネラ  シナモンを追い求めて
ペルー・バルサム  新たなバルサムの発見

第10章 人類史としてのスパイス

スパイスの呼称と世界貿易の歴史
手作業のグローバリゼーション

 

< 黒コショウ >

◆黒コショウと白コショウの違い

Dried_peppercorns この穏やかなスパイスは―今日では誰でも知っているスパイスだ―インド南部原産の蔓性植物、ピペル・ニグルム(Piper nigrum)から採れる。黒コショウはこの植物の実で、やや未熟なうちに摘んで乾燥させる。さらに味が穏やかな白コショウは、同じ実を、もう少し熟してから摘む。この時期になると、果皮を簡単に取り除くことができ、残った白い種子が白コショウである。

黒コショウはサンスクリット語で「マーリーチャ」と呼ばれている。また「マーリーチャ」は、西暦初期に成立した叙事詩『ラーマーヤナ』で重要な役割を果たす羅刹の名でもある。マーリーチャは鹿に姿を変えてラーマ王子をおびき出し、その隙に魔王ラーヴァナがシーター姫を誘拐する。姿を変えていないときの羅刹は、確かにコショウに似て、「色は黒雲のよう」で、「黒い羚羊(カモシカ)の皮をまとっていた」。そして、これから立ち向かわなければならない命懸けの使命を思って、避けがたい運命に屈する前に、「恐怖に萎(しな)び、乾いた唇を舌でなめ回した」。

◆季節風を利用した航路がローマ帝国にもたらした黒コショウ

紀元前四世紀のギリシャ人はすでに黒コショウを知っていた。彼らはそれを長コショウの一種と見なし、同じ名前で呼んでいた。そうした古い時代には、遠くの産地から陸路または沿岸航路を通って運ばれてくる黒コショウは、長コショウに劣らず高価だったに違いないが、刺激が弱い分、人気もさほどではなかった。

Romeship 500年後に状況が一変した。ローマ帝国初期の頃、季節風を最大限に利用できるようになったインド洋の貿易商人たちは、初めてインド南西部の港まで行けるようになった。それらの港の背後には、「コショウの国」があった。そこは黒コショウに適した土地で、大規模な栽培が行われていた。ローマ帝国時代のエジプトからやって来た船は、10月か11月に荷を積み込み、ちょうどいい時期に西へ向かって帰ることができた。

それ以降、ローマ人はインドで採れるどのスパイスよりも、黒コショウを欲しがるようになったのである。ローマの皇帝はコショウを通貨として扱い、ローマの宝庫に大量のコショウを、使わずに蓄えていた。「彼らは金貨を持ってやって来て、コショウを持って帰る」、「一年に一億セステルティ(古代ローマの銀貨)もの金がローマからインドや中国、アラビア半島に流れている」。

↓ローマ帝国版図の拡大
紀元前133年(赤) 紀元前44年(橙色) 14年(黄) 117年(緑)
Roman_empire

◆コショウは贅沢な食事の象徴だった

古代の文献はどれも、長コショウが最も薬効に優れ、特に中毒によく効くという点で一致している。したがって、食通や勤勉な医師たちは、意識的に黒コショウや白コショウでなく長コショウを使ったかもしれないが、人々の間では概して、まるで一種類しかないかのようにまとめて「ピペル」と呼ばれ、レシピの中でも同様の扱いだった。

中世ヨーロッパでは、コショウは明らかに最も一般的で、代表的な東洋産のスパイスだった。贅沢な食事を手短に描写するときは、コショウが使われていたと書くだけで、ほかのスパイスについて触れなくても事足りた。

◆遠隔地の情報ゆえに 何世紀も同じ間違いを正せなかった

黒コショウと白コショウは元は同じ植物の実であり、ギリシャ人やローマ人はそのことを知っていた。ローマの薬理学者ディオスコリデスは、誤って長コショウも同じものだとした。つまり、長コショウ(下画像)の穂の小さな実が完全に熟したものが黒コショウだと考えたのだ。ギリシャの哲学者テオフラストスは、そんな間違いは犯さなかったのだが、いったんディオスコリデスが同一説を唱えだすと、それ以降の西洋の学者たちは皆それにならった。1世紀の大プリニウスも、2世紀のガレノスも、7世紀のセビリアのイシドール(スペインの大司教。百科事典を著した)も、10世紀のアヴィセンナもその節を踏襲し、14世紀に書かれた奇書『サー・ジョン・マンデヴィルの旅行記』にも、同じ間違いがそのまま受け継がれている。

「これらの著者はすべて、間違ったことを書いているという点で共通している」と宣告を下しているのは、長年にわたる誤りを正すべく運命付けられたガルシア・デ・オルタ(1501 or 1502 – 1568)である。「ディオスコリデスを責めようとは思わない。彼は、今ほど船の行き来もなかった時代に、遠隔の地からはるばる海を越えてもたらされる怪しげな情報に頼るしかなかったのだから」。

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◆「コショウの国」

先に述べたように、「コショウの国」はケララ地方、つまりかつてのネルキンダの奥地にある。パンビヤール川の下流にかつてのネルキンダがあり、ムジリス(ムシリ)の港もほど近いところにあった。2世紀にできたあるタミル語の詩が、この貿易港のかつての賑わいを今に伝えている。「おびただしい数のコショウの袋が、家々から市場に持ち込まれ、それと引き換えにローマの船から支払われた金貨が、何袋も浜辺に並ぶ。ムシリでは、海が奏でる歌が止むことがない。そしてムシリの王クドゥヴァルは気前よく、客人に海の竜涎香(りゅうぜんこう)と山のカルダモムを贈る」。

産業としての大規模な栽培が行われているのは、海岸から少し離れた内陸部である。だが、世界の需要が増大するにつれて、「コショウの国」も次第に外へ外へと広がった。南部地方で採れるものは、業界で「アレッピー」コショウと呼ばれ、北部のものは「テリチェリー」と呼ばれている。そしてさらに北の、もともと産地ではなかった地方で採れるものは、「マンガロール」コショウと呼ばれる(アレッピー、テリチェリー、マンガロールはインド南西部の港市)。

◆「緑のコショウ」

Piper_nigrum_drawing_1832 ところで、コショウはほかの土地でも栽培が可能であり、現に栽培されてきた。ガルシア・デ・オルタは、ジャワ島やスンダ列島、スマトラ島、マダガスタル島、それにマレー半島をはじめとする東南アジアの大陸側のあちこちで、コショウが栽培されていることを知っていた。「だが、そのコショウはすべて中国で、あるいはその産地で消費されている」。例によって彼は正しい。アラビアや中国の情報通は、東南アジアのコショウ―「緑のコショウ」と呼ばれる―についてよく知っていた。

ヨーロッパ人の出現以降、コショウはそれまでよりずっと広い範囲で栽培されるよになり、今日では中央アフリカや、太平洋のいくつかの島々で重要な作物となっている。中世の代表的な美味の一つだったコショウの実のピクルスは、すでに忘れられてしまったが、今では緑のコショウの実―未熟な実―が、「産地」から遠く離れた国々で賞味されている。

↓緑コショウ=黒コショウ=白コショウの実
Piper_nigrum02_2Piper_nigrum03
Piper_nigrum01Piper_nigrum04

 

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<著者>

アンドリュー・ドルビー  Andrew Dalby

Food_history 1947年生まれ。言語学者、歴史学者。英国言語学会名誉特別会員。

『言語学の辞典』(1998)、『言語の危機』(2002)など多くの著作がある。食物史の分野では、『セイレーンの祝宴―ギリシャ食物史』(1996)、『東ローマ帝国の味』(2000)、『古代ギリシア・ローマの料理とレシピ』(サリー・愚レンジャーとの共著、邦訳=丸善、今川香代子訳、2002年)、『バッカス』(2003)など数多くの本を執筆。1996年に発表した「料理におけるアレクサンドロス大王の遺産」と題する論文では、食物史の優れた研究に対して与えられる「ソフィー・コウ賞」を受賞。現在はフランス在住。執筆のかたわら、ガーデニングやりんご酒造りにいそしんでいる。

<訳者> 

樋口幸子。東京生まれ。早稲田大学卒業。翻訳家。

<編集協力> 

エスビー食品株式会社 高橋良孝

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