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2008年4月 1日 (火)

006『百年の誤読』 岡野宏文 豊﨑由美 初版2004年

「ベストセラーの正体って、もしかして、ひょっとして、万が一、・・・・・ヘナチョコ?」

「ちょっと待てよ。ベストセラーというのは、昔っからやっぱりこうだったんだろうか。ここはいっそ、せめて二十世紀の足跡だけでも、一気にまとめて検証してみたい。」

20080401

一つ大きな発見がありました。

さぞやみなさんにも一読瞭然のことと思われます。

本の世界には、昭和三十五年に謎があるのです。一九六〇年のフォッサマグナ。このたった一年を境に、ほとんどスイッチを切り替えるように、読書傾向が「だらしな派」へと切り替わってしまうのです。戦前戦後ではないんですね。何が身のひるがえしを起こさせたのか、みなさんもどうぞ一緒に読みながらぜひ考えてみてください。 <p3より抜粋>

ちょっと前に、明治以降の日本の著名文学者の作品をDSで読むソフト『DS文学全集』にハマッて、収録100作品の7割を読んだ。興味のあまり持てなかった3割も、あらすじ機能であらすじだけは読んだ。有名作品ばかりが収録されているので、読んだ事のある作品も多かったけど、再読すると思った以上に面白かった。さすが名作!

この『百年の誤読』では、“ベストセラーのセレクションに関して、戦後につきましては取次店の売り上げデータを元にしましたが、戦前にはこの手の集計がありませんでしたので、いくつかの資料にあたって、その時々の話題を呼んだ作品、またメルクマールと呼べる書籍を取り上げて”あるだけあって、『DS文学全集』収録作品と一割ちょっと被ってる。で、『百年の誤読』100作品中、5割程度が既読作品だった。「へぇ~、この作品ってベストセラーだったんだ・・・」なんて認識を新たにする作品もあって、目次を見る段階で既に面白かった。

既読作品はその論評を楽しみに、未読作品も100年のベストセラー文学の流れという中での捉え方を楽しみに、読んでみようと思った。

< さくら好み ★★★☆☆ 

 

 以下、ネタバレあり。


高等遊民小説、『それから』  *『DS文学全集』収録作品

豊﨑 じゃあ、この男がどうご立派な人物かといえば、月に一度本家にお金をもらいに行くような穀潰しなわけですよ。で、<月に一度の外にも、退屈になれば出掛けて行く。そうして子供に調戯ったり、書生と五目並べをしたり>って・・・・・、頼むから働け、働いてくれ(笑)。

岡野 代助が働かない理由がこれまた爆笑もんなんだよ。<「何故働かないって、そりゃ僕が悪いんじゃない。つまりは世の中が悪いのだ。もっと、大袈裟に云うと、日本対西洋の関係が駄目だから働かないのだ(略)」。そう来ましたか(笑)。西洋まで持ち出すとは、さすが高等遊民。 <p39~p40より抜粋>

流行のナップ小説、『蟹工船』  *『DS文学全集』収録作品

豊﨑 ところで、当時の労働者って新聞購読する金銭的余裕なんてあったんでしょうか。意外と裕福な家庭のマダムが遊園地のアトラクションを楽しむみたいに、貧乏臭いナップ小説読んでたんじゃないかな。「あらまっ、やだ。貧乏って怖いわねー」なんて驚嘆の声上げながら。

岡野 ありがたいわねえアタクシどもは、蟹が食べられて、とか?(笑)

豊﨑 しかしですね、この蟹工船ってのに高等遊民の代助を乗せたかったですよ、わたしはっ。 <p110より抜粋>

もう、爆笑しちゃったよ!

あと、未読作品で、今度読んでみたいと思わせられたものに、さくらももこ『もものかんずめ』があった。二人とも絶賛しているし、引用されている文章がこれまた面白いのだ。

ただ個人的な知識不足で、イマイチこの二人の会話についていけないトコロが多かったのが残念だった。豊﨑シャチョーが出演している“TBSラジオストリーム「コラムの花道」”は、分り易い言葉を使ってくれているので、あたしも楽しく聞いているけどね。

本の世界には、昭和三十五年に謎があるのです。一九六〇年の・・・。1951年~1970年までの年表♪

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イタリアの作家イタロ・カルヴィーノは『なぜ古典を読むのか』(みすず書房)の中で、古典の定義を十四項目挙げています。その中の

<古典とは、最初に読んだときとおなじく、読み返すごとにそれを読むことが発見である書物である>

<古典とは、他の古典を読んでから読む本である。他の古典を何冊か読んだうえでその本を読むと、たちまちそれが[古典]の系譜のどのあたりに位置するものかが理解できる>

<古典とは、人から聞いたりそれについて読んだりして、知りつくしているつもりになっていても、いざ自分で読んでみると、あたらしい、予期しなかった、それまでだれにも読まれたことのない作品に思える本である>

という言葉の正確さが、今、わたしの胸に響きます。

もちろん、この本で取り上げているのは“古典”ではありません。古くて、たかだか百年前。名作ばかりでもないし、なかには目を覆うばかりにひどいベストセラーもあります。でも、とわたしは思うのです。読んでみなけりゃわからない。今「あらすじで読む」云々シリーズがそれこそベストセラーになっているようですが、本は一冊丸々読んで、初めて理解できる、あるいは理解できないことが理解できるのです。 <p387~p388より抜粋>

この豊﨑シャチョーのあとがきが、あたしの胸に響きました。本当にその通りです、シャチョー!

本書の中で“目を覆うばかりにひどいベストセラー”として紹介されている作品も、対談の内容には頷くものの、あたしは面白く読んだ記憶のある作品があり、イイ作品だから面白い分けじゃないけど、ヒドイ作品だからと云って面白く無い分けじゃないんだなぁ・・・と思った。ベストセラーは、時代の空気が後押しする“旬な作品”だから、今現在読んだら賞味期限切れで、あたしもツマンナイ作品と思うかもしれないけどね。

 
 
*****・・・・・*****・・・・・*****

岡野 宏文

1955年生まれ。フリーライター&エディター。演劇雑誌の編集長を経て独立。
 

豊﨑 由美 wiki

豊﨑由美(とよざき ゆみ、1961年 - )は、フリーライター、書評家。愛知県生まれ。東洋大学文学部印度哲学科卒業。

編集プロダクション勤務を経て、フリー。文芸、演劇、スポーツ、競馬予想などを手がける。

書評はジャンル横断的に手がけるが、先鋭的、前衛的な手法の文学を特に好む。自分の文学観から「退屈」な作品については、ようしゃなく叩く「毒舌書評」で知られている。

また、普段の態度の大きさから、書評家仲間らから「シャチョー」と呼ばれている。
 
 
 

20080330

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